ピアノ独奏作品
ピアノ・ソナタの番号は「ウィーン原典版」に従っています。なお、この頁では印象に残った演奏についても記してあります(実演が基本ですが録音も含みます)。
ピアノ・ソナタ(第1番)ホ長調 D 157 (1815)
メヌエットで終わっている未完成の作品。ホ短調の第2楽章が歌曲風で美しい。
ピアノ・ソナタ(第2番)ハ長調 D 279(1815)
この曲もメヌエットまでの未完成作品。第1楽章主題はユニゾンで力強く、第2楽章はヘ長調で古典的な美しさを見せる。
ピアノ・ソナタ(第3番)ホ長調 D 459(1816)
「五つの小品」として出版されたもの。1,2楽章、3,4,5楽章と別々に構想されたらしい。楽想の変化に富んだ第1楽章、シューベルトらしい美しさのアダージョ、そして独特のリズム感に満ちた最終楽章が魅力的である。
★ 演奏上の問題点:第2楽章に出てくる分散オクターヴ(上から下へ)が見た目以上に演奏困難だと思う。ペダルとの関連にも注意したいパッセージだ。
★ 印象に残った演奏: スヴャトスラフ・リヒテル(1980.6.18 ホーエネムス城でのライヴ録音)
ピアノ・ソナタ(第4番)イ短調 D 537,Op.164(1817)
力強い和音のテーマで始まる(ブラームス的と言えるかも)第1楽章、後の遺作ソナタでも用いられた主題の第2楽章が素晴らしい。
ピアノ・ソナタ(第5番)変イ長調 D 557(1817)
ハイドン風の第1楽章、有名なイ長調(D 664)の終楽章に似ている終楽章が特徴。
ピアノ・ソナタ(第6番)ホ短調 D 566(1817)
初期の名作。第2楽章はその雰囲気からしばしばベートーヴェンの「ピアノソナタ第27番Op.90」の緩徐楽章と比べられる。最終楽章は「ロンド D 506」。
ピアノ・ソナタ(第7番)変ニ長調 D 567(1817)
第3楽章の途中で未完となっている。続く「D 568」の旧稿とされる曲。
ピアノ・ソナタ(第8番)変ホ長調 D 568,Op.122(1817/1826改訂?)
古典的で明るい魅力にあふれた作品。最終楽章は愛らしい美しさに満ちている。
ピアノ・ソナタ(第9番)嬰へ短調 D 571(1817)
第1楽章と第4楽章が未完成の作品。第2楽章は「D 604」、第3楽章は「D 570」、第4楽章は「D 570」と Deutsch 番号が付けられている。旧全集では第3・第4楽章は「アレグロとスケルツォ」として別の曲だった。
★ 演奏上の問題点:第1楽章第1主題は普通はペダルを用いて演奏すると思うのだがスタッカートをどう感じて弾くかという問題。というのは展開部、第114小節に現れるバスの動機は音を切った方が良いように思うので。この曲の楽想をどのように理解したら良いのか今でも分かっていないのが残念だ。もしかすると弦楽四重奏などに編曲したほうが良いのかと思ったりもする。
ピアノ・ソナタ(第10番)ロ長調 D 575
第1楽章は、付点リズムを特徴とする個性的な主題が面白い。第2主題はどこか歌曲を思わせる軽やかさ。ダイナミックスの幅広さも特徴である。緩徐楽章も魅力的な主題と劇的展開で聴かせる充実した作品。
★ 印象に残った演奏: スヴャトスラフ・リヒテル(1979.2.21 新宿・厚生年金会館)
ピアノ・ソナタ(第11番)ハ長調 D 613(1818)
第1・第3楽章は未完成。第2楽章(D 612)は「さすらい人幻想曲」の第2楽章を思わせる細かい装飾音型が見られ、全体的にもピアニスティックな傾向を進めた作品として注目される。
ピアノ・ソナタ(第12番)ヘ短調 D 625(1818)
第1・第4楽章は未完成。第3楽章は「D 505」。第4楽章は少し補填すれば演奏可能なこと、第1楽章が「熱情」ソナタ風の魅力を持っていることからしばしば演奏される。第1楽章の補完方法については各エディションでさまざまな方法がとられている。
★ 印象に残った演奏: スヴャトスラフ・リヒテル(1979.2.21 新宿・厚生年金会館)
ピアノ・ソナタ(第13番)イ長調 D 664(1819)
最もよく知られたソナタ。ピアノ五重奏曲「ます」と同じ時期の作品。第1楽章は歌謡性が強く、それゆえソナタ形式としての有機的展開には乏しい。第2楽章は美しい旋律の緩徐楽章。第32小節の転調はまさにシューベルト的と言えるだろう。第3楽章は明るく爽やかなロンドである。
★ 印象に残った演奏: スヴャトスラフ・リヒテル(1979.2.21 新宿・厚生年金会館)/イェルク・デームス(1980.11.22 武蔵野音楽学園べートーヴェンホール)
ピアノ・ソナタ(第14番)イ短調 D 784(1823)
ドラマティックな傑作。第1楽章主題は交響曲風のもので、休符の扱いに独特の緊張感がある。シューマンは「シューベルトの最もすぐれたソナタ」と評した。
★ 印象に残った演奏: スヴャトスラフ・リヒテル(1979.2.21 新宿・厚生年金会館)/森正(2015.4.29 東京オペラシティ リサイタルホール)
ピアノ・ソナタ(第15番)ハ長調 D 840「レリーク」(1825)
「遺品」という名前が1861年の出版の際に付けられた。第3・第4楽章は未完成だが、補完版もありしばしば演奏される。「イ短調 D 845」と双生児の関係である作品との指摘もある。第2楽章が美しい。冒頭の主題が繰り返される際の借用和音はモーツァルト「魔笛」のアリア「愛の喜びは露と消え」を思わせる。
ピアノ・ソナタ(第16番)イ短調 D 845,Op.42(1825)
意志の力を感じさせる第1楽章、穏やかで安らぎに満ちた第2楽章、軽やかなフィナーレなどが特徴と言えるが、なぜか名演が少ないような気もする。
ピアノ・ソナタ(第17番)ニ長調 D 850(1825)
シンフォニックで明るいソナタ。第1楽章は楽想が豊富で、シューベルトにしては音が饒舌にも感じられる。長大だがメロディーの美しい第2楽章、リズミカルで楽しい第3楽章スケルツォは魅力的である。フィナーレも親しみやすい。
ピアノ・ソナタ(第18番)ト長調 D 850(1826)
「幻想」というタイトルはハスリンガー社が第1楽章に対して付けたもの。シューマンが絶賛しているのだが、この曲も名演に遭遇することが少ない。
ピアノ・ソナタ(第19番)ハ短調 D 958(1828)
後期「3大ソナタ」の第1曲。第1楽章テーマはベートーヴェンの「32の変奏曲」との関連がしばしば指摘される。フィナーレは同じくベートーヴェンの「第18番」の第4楽章のようである。全曲はなかなか長大だ。
★ 印象に残った演奏: 椎野伸一(2012.12.2 紀尾井ホール)
ピアノ・ソナタ(第20番)イ長調 D 959(1828)
悲劇的な第2楽章が素晴らしい。
★ 演奏上の問題点: 第1楽章第112、313小節などの長い休符は正確に演奏しないと次の旋律の拍が何拍目なのか分かりにくくなる。拍節の捉え方が重要になる所だと思う。
ピアノ・ソナタ(第21番)変ロ長調 D 960(1828)
最高傑作と評される。この曲の魅力は演奏者によって違ったものがあると思う。
★ 印象に残った演奏: ルドルフ・ゼルキン(1978.3.9 神奈川県民ホール)
4つの即興曲 D 899[Op.90](1827頃)
本来は連続した番号を付けるはずだったらしく、シューベルトは8曲をまとめて出版することを望んでいた。 ハスリンガーがD 899の最初の2曲のみを出版することになったことなど、出版に至る経緯は難しいものがあったようだ。
D 899(Op.90)の第1番はテーマと変奏、 第2番は無窮動(トリオはスケルツォ風)、第3番は無言歌風、第4番はアラベスク、と自由自在な作風を見せる傑作。
4つの即興曲 D 935[Op.142] (1827)
第1番はA-B-C-A'-B'-C'A'形式で、ソナタの第1楽章とも考えられるが(シューマンの説)、シューベルトの第1楽章の典型とはやや異なる自由さを持っている。第2番はサラバンドのようなリズムだがテンポはアレグレット。 第3番は主題と変奏で、このテーマは「ロザムンデ」の間奏曲と同じ。 第4番は舞曲風でハンガリーの香りがする。楽想の変化は全く天衣無縫と言うべき素晴らしさである。コーダにみられる和声進行はのちのブラームス「ピアノ五重奏曲」のフィナーレにも共通する。
★ 印象に残った演奏:木村徹(2013.10.24 ヤマハ銀座店コンサートサロン)
楽興の時 D 780[Op.94](1828)
「性格的小品」の典型。第1番は朝のすがすがしい空気を感じさせるような爽やかさ、 第2番はのちのラフマニノフが好んだリズムを繰り返し使うが穏やかな情緒をもつ。中間部は単純な伴奏の上に悲劇的な旋律が歌われる。第3番は有名な一曲で、1823年に「ロシア風の旋律」として出版された経緯がある。 第4番はアラベスク風の動きを持つ主部とシンコペーションの中間部が異名同調の関係。
第5番はシューベルトが好んだ「ダクチュルス」リズムの激しい一曲。 第6番は1824年に独立して出版された際には「トルバドゥールの嘆き声」とタイトルがあったらしい。
ハンガリーのメロディ ロ短調 D 817(1824)
連弾用作品「ハンガリー風ディヴェルティメント」第3楽章にも使われている旋律。「楽興の時」第3番のような伴奏形のオスティナートが特徴で、哀愁漂う一曲。
アレグレット ハ短調 D 915(1827)
「わが親愛なる友ヴァルヒャーへの記念として・・1827年4月26日、ウィーン」という献辞が付けられた一曲。単純素朴な構成の中にも深い情緒を感じさせる名作。
3つのピアノ曲 D 946(1828)
「規模の大きい『楽興の時』」とヴァルター・ドュルは評した。第2曲の二つ目の中間部はシューベルト作品中でもとりわけ美しい。
幻想曲ハ長調 D 760[Op.15]「さすらい人」(1822)
楽章間の動機統一がきわめて高度な形で表れた傑作。シューベルトとしてはかなり力強い性格を持つがそれゆえ単調な演奏になることも多いので要注意。
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