モーツァルト Wolfgang Amadeus Mozart (1756〜1791)

「演奏上の問題点」で[m]は「第・・小節」の略です。


クラヴィーアのための変奏曲 Variation für Klavier

グラーフのオランダ歌曲《歓呼しよう、バタヴィアの人たちよ!》による8つの変奏曲 ト長調 KV 24 (1766)
8 Variationen in G über das holländische Lied "Laat ons Juichen Batavieren!" von Christian Ernst Graaf KV 24
オランダ総督ヴィレム5世の叙任に際して作られた主題に基づく。新全集ではテーマに歌詞が添えられている。第2、3、5,7変奏で重音奏法が見られるのが特徴。第6変奏でアダージョになるのが曲想の変化するところ。
・ 演奏上の問題点: 第6変奏 m6で64分音符を含む細かいリズムの変化があり、ここを意識した上で全体のテンポを決める必要はあると思う。

オランダ民謡《ヴィレム・ファン・ナッサウ》による7つの変奏曲 ニ長調 KV 25 (1766)
7 Variationen in D über holl&aum0l;ndische Lied "Willem van Nassau" KV 25
第5変奏がアダージョ。この途中でフェルマータが登場するのが特徴。

サリエリの「ヴェネツィアの市」の第2幕フィナーレ主題による6つの変奏曲 KV 180 (1773)
6 Variationen in G über "Mio caro Adone" aus dem Finale(U.Akt) der Oper La fiera di Venezia (Antonio Salieri) KV 180 (173c)
強弱記号(p, f, sf, cresc.)の指示があり、第4変奏でのオクターヴ奏、第6変奏での拍子および速度の変化、など、それまでの変奏曲には見られない特徴がある。
・ 演奏上の問題:ベーレンライター版ではテーマの強弱記号が多すぎることを疑問視して「後の版から記号を採用した」とある。エディションを見比べることも必要/第2変奏 m8の右手は初版ではドミナントの2分音符だがウィーン原典版などではトニックに終止するようになっている。

フィッシャーのメヌエットによる12の変奏曲 ハ長調 KV 179 (1774)
12 Vatiationen in C über ein Menuett von Johann Christian Fischer KV 179 (189a)
フィッシャーは18世紀後半のオーボエ奏者。この曲の主題はモーツァルトのお気に入りだったそうである。第9変奏での手の交差、第10変奏での分散オクターヴなど技巧的に華麗である。第11変奏は美しいアダージョ、最終変奏はアレグロ。

ボーマルシェの《セヴィリアの理髪師》のロマンス《私はランドール》による12の変奏曲 変ホ長調 KV354 (1778)
12 Variationen in Es über die Romanzen "Je suis Lindor" aus der Komödie  Le Baribier de Seville (Antoine-Lanurent Baudron) KV 354 (299a)
テーマは和声的に充実したもので、各変奏も魅力的な音に満ちたものと言える。特にギャラントな美しさを示す第3変奏、音の広がりが素晴らしい第4変奏、力強い第7変奏など。第9変奏はミノーレとなり、調的な変化もみせる。第10,11変奏はオクターヴのトレモロ(変奏の順は新全集に従った)。

フランスの民謡「ああ、お母さん、あなたに言いましょう」による12の変奏曲 ハ長調 KV265 (1781/82)
12 Variationen über ein französisches Lied “Ah vous dirai-je maman” KV 265(300e)
テーマは1770年代にパリで愛好されていたため1778年作と言われてきたが、ウィーンで1781-82年作という説が有力となっているらしい。親しみやすいテーマを基に、変化にとんだ変奏が魅力的な名作である。

フランス民謡「きれいなフランソワーズ」による12の変奏曲 変ホ長調 KV353 (1781/82)
12 Variationen in Es über das französische Lied "La belle Françoise", KV 353 (300f)
テーマは重音で演奏されるもので、全体で12小節の分かりやすいメロディーと言える。第3、5、8変奏などに見られる3連符の流れが非常に心地よい。第9変奏はミノーレで、珍しい変ホ短調となる。最後に主題が回帰するのはKV354と同じ。

ドゼードのジングシュピール《ジュリ−》の中のアリエット《リゾンは森に眠れり》による9つの変奏曲 ハ長調 KV264 (1778)
9 Varioationen in C über die Ariette "Lison dormait" aus dem Singspiel Julie (Nicolas Dezède) KV 264 (315d)
親しみやすい主題に基づいた、名人技巧を駆使した変奏曲。特に第4、8変奏に見られる非常に長いトリル、第6、7変奏の見事な分散オクターヴ、第9変奏コーダに出てくるグリッサンドなどが特徴と言える。

グレトリーのオペラ《サムニウム人の結婚》の合唱曲《愛の神》による8つの変奏曲 ヘ長調 KV 352 (1781)
8 Variationen in F über das Chrorstuck "Dieu d'amor" aus der Oper Les Mariages Samnites (André-Ernst-Modeste Grétry)
テーマは合唱曲に基づく。華やかな技巧が少ないという指摘があるようだが、第2変奏の和音上のトリル、第3変奏のアルベルティ低音と分散オクターヴの組み合わせ、第6変奏の手の交差で用いられた和音などに注意する必要はあると思う。

パイジェッロのオペラ《哲学者きどり》のアリア《主よ、幸いあれ》による6つの変奏曲 ヘ長調 KV398 (1783/84)
6 Variationen in F über die Aie "Salve tu,Domine" aus de Oper I filosofi immaginarii (giovanni Paisiello) KV 398 (416e)
モーツァルトが1783年の演奏会で即興を行ったことに基づくとされる作品。確かに即興的パッセージがみられる。特徴としては第2変奏での幅広い跳躍と途中でのリズム変化、第4変奏での幻想曲的展開、第5変奏以降の技巧的な見事さなど。そしてアダージョ変奏がないことも特徴である。

グルックのジングシュピール《メッカの巡礼》のアリエッタ《愚民の思うは》による10の変奏曲 ト長調 KV455 (1784)
10 Variationen in G über die Ariette "Unse dummer Pöbel meint" aus dem Singsipel Die Pilgrime von Mekka (Christoph Willibald Gluck)KV 455
KV398と同じく演奏会で即興演奏されたと言われている。古典的な変奏曲の形のようだが、第7変奏の和声的な味わい、第8変奏の華やかなカデンツァ、最後の主題回想が主題そのものから離れていくところ(ピアノ協奏曲KV488最終楽章を思わせる)など、変化に富んでいて楽しい作品である。

アレグレットの主題による12の変奏曲 変ロ長調 KV 500 (1786)
12 Variationen in B über ein Allegretto; KV 500
簡潔に書かれ、まとまりの良い変奏曲である。とくに第10変奏の後半で短調に転じるところの味わい、そしてアダージョの後に続く3/8アレグロの軽快さが素晴らしい。

デュポールのメヌエットによる9つの変奏曲 ニ長調 KV573 (1789)
9 Variationen in D über eine Menuett von Jean Pierre Duport; KV 573
作曲者はポツダムの宮廷楽長でチェロ奏者だった。モーツァルトの作品目録では「主題と6つの変奏曲」とあり、初版の際に3つの変奏が付け加えられたとされるがよくわかっていない。演奏の機会は多い作品であるが、名作かどうかということについては意見が分かれるようだ。

シャックの《愚かな庭師》のリート《女ほど素晴らしいものはない》による8つの変奏曲 ヘ長調 KV 613 (1791)
8 Variationen in F über das Lied "Ein Weib ist das herrlichste Ding" aus dem Singspiel Der dumme Gartner (Benedict Schack);  KV 613
テーマは1789年にウィーンで上演された音楽付き道化芝居『愚かな庭師』により、ベネディクト・シャックの音楽だが一部はF.ゲルルによるとのこと[『モーツァルト事典』東京書籍])。テーマはアリアの器楽前奏も用いているため長い。演奏の機会は多くないようだが、第6変奏で前奏の後にヘ短調に転じる瞬間などはっとさせられる瞬間があったり、第7変奏では前奏の後にアダージョとなるなど、なるほどこういう作風もあるのかと思わせる名曲。コーダが素晴らしい。



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