メンデルスゾーンのピアノ作品

 ピアノ独奏曲 

ピアノ・ソナタ  ト短調 Op.105(1821)

12歳の時の作品。古典的な作風を示す習作と言える。
第1楽章: アレグロ、ト短調、4/4拍子、ソナタ形式。特徴はハイドンのように第1主題と第2主題に同じ素材を用いていること。コーダで主題動機を反復するなど独特の工夫が見られる。
第2楽章: アダージョ、変ホ長調、3/8拍子、ソナタ形式(再現部は縮小型)。
第3楽章: プレスト、2/4、ト短調、ソナタ形式。ハイドンあるいはクレメンティ風の軽快な音楽となっている。

ロンド・カプリチョーソ  ホ長調 Op.14 (1824)
アンダンテ、ホ長調の序奏、アレグロ、ホ短調のロンド・カプリッチョーソの二部構成。音楽のまとまりが良く、コーダなど演奏効果に富んでいるため人気の作品となっている。

カプリッチョ 嬰へ短調 Op.5 (1826)
プレスティッシモ、3/8拍子で書かれた軽快な曲想。時折現れる分散オクターヴが効果的に響く。

ピアノ・ソナタ  ホ長調 Op.6 (1825)
第1楽章  アレグレット・コン・エスプレッシオーネ、6/8拍子、ソナタ形式。抒情性に満ちた楽章で、特に流れるような第2主題が美しい。 ベートーヴェンの「ピアノソナタOp.101」との関連がしばしば指摘されるが、第2主題はベートーヴェンの「ソナタOp.90」第2楽章を思わせる雰囲気がある。
第2楽章  テンポ・ディ・メヌエット、3/4拍子、三部形式。テーマは和音のスタッカートで軽やかな性格。トリオはテンポを上げて演奏される。
第3楽章  レチタティーヴォ アダージョ・エ・センツァ・テンポ、 前半は調号と小節線のないレチタティーヴォ風音楽で、4/4拍子になってからクレッシェンド、f と曲想が変化する。 アンダンテ、嬰へ長調3/4拍子からアレグレットへと変わるがまたレチタティーヴォが現れ、アンダンテ、アレグレット・コーメ・プリマを経てフィナーレに入る。
第4楽章  モルト・アレグロ・エ・ヴィヴァーチェ、4/4拍子、ソナタ形式(コーダに第1楽章の回想あり)。元気で力強いフィナーレ。主題にはワーグナーのある楽曲を先取りしたような和声進行がみられるが、こういうことは確かシューベルトのピアノソナタにもあった(調査中)。静かに曲を閉じる方法は、後のリスト「ピアノソナタ」/ブラームス「第3交響曲」などのロマン派作品を思わせる。

ピアノ・ソナタ 変ロ長調 Op.106 (1827)
1868年に出版された、メンデルスゾーン17歳の作品。
第1楽章  アレグロ・ヴィヴァーチェ、2/4拍子、変ロ長調、ソナタ形式。第1主題の性格、3度関係の第2主題など、ベートーヴェンの「ピアノソナタ Op.106」との関連が指摘されている。
第2楽章  スケルツォ  アレグロ・ノン・トロッポ、変ロ短調、三部形式。第2楽章でのスケルツォ、スタカート音型などからベートーヴェン「ピアノソナタ Op.31-1」との関連を指摘する人がいる。
第3楽章  アンダンテ・クワジ・アレグレット — アレグロ・モルト、ホ長調、三部形式。のちの「無言歌」を思わせる抒情的な音楽。第1楽章の動機が再登場する推移を経て最終楽章に入る。
第4楽章  アレグロ・モデラート、4/4拍子、変ロ長調、三部形式。第1主題は分散和音で奏されるもので、流れの良さという点でメンデルスゾーンの特徴がよく出ている。第2部では第2楽章が回想されるのが面白い。 アッチェレランドで再現部が導かれ、第1楽章と同じく、静かに曲を閉じる。

前奏曲とフーガ ホ短調(1827, 1841)
前奏曲: アレグロ・モルト。低音部に現れた主題を3連符の分散和音で技巧的に発展させてゆく音楽。
フーガ: アレグロ・エネルジーコ。全音符での7度下行と付点音符進行の特徴を持つテーマが自由でロマン的に展開される。

7つの性格的小品集 Op.7 (1827)
第1曲  柔らかく、感情をもって: アンダンテ、ホ短調  バッハのオルガン曲を思わせる静かな雰囲気をもつ。
第2曲  激しい動きで: アレグロ、ロ短調  エチュード風の音楽だが、どことなくシューマンを思わせるような雰囲気もある。
第3曲  力強く、燃えるように: アレグロ・ヴィヴァーチェ、ニ長調  フーガであるがオクターヴ、和音も多く用いられるため、ベートーヴェン的とも言える音楽。
第4曲  速く、軽快に: コン・モート、イ長調  無窮動風の音楽。ウェーバーのソナタ第1番を思わせる動き。
第5曲  まじめに、次第に生き生きと:  フーガ  センプレ・レガート、イ長調  バロック風の重厚なフーガだが、途中からテンポが上がり、後半は力強い和音進行となる。
第6曲  憧れに満ちて: アンダンテ、ホ短調  宗教的合唱曲の雰囲気である。
第7曲  軽く、風のように:  プレスト、ホ長調  軽やかな妖精の踊り、あるいは小鳥の鳴き声などを思わせる、メンデルスゾーンらしさに満ちた楽曲。曲の終止がホ短調になるのが面白い。

「夏の名残の薔薇」の主題に基づく自由な幻想曲 Op.15(1827)
日本では「庭の千草」として知られる旋律。ホ短調の短い序奏の後にテーマが奏され、その後プレスト・アジタートとなる。途中でレチタティーヴォが出てくるのが「自由な幻想曲」らしい楽想と言える。

スケルツォ  ロ短調 (1829)
1829年9月に『ベルリン一般音楽新聞』の付録として初めて印刷物として出版され、その後 1838 年5 月に出版された(Peters Edition より)。プレスティッシモ、4/4拍子、ロ短調。小刻みな8分音符が両手で交代に奏される、全体で2ページの小品。

3つの幻想曲あるいは奇想曲 Op.16(1829)
1829年にイギリスを訪れた時の作品で、各曲の成立にはさまざまな説があるが、いずれも個性的で名作である。

6つの前奏曲とフーガ Op.35 (1831-37)
第1曲: ホ短調。前奏曲  アレグロ・コン・フオーコ、4/4拍子。練習曲Op.104b第1番のように急速なアルペッジョの中に旋律を浮かび上がらせる書法。フーガは途中から速度を上げるように指示されているのがロマン派のフーガらしい。コーダには「コラール」が現れるドラマティックな音楽。
第2曲: ニ長調。前奏曲  アレグレット、4/4拍子。オクターブで演奏されるピッツィカートのような低音に乗って軽やかなメロディーが演奏される。フーガ  トランクィッロ・エ・センプレ・レガート、3/4拍子。穏やかな情緒の音楽。
第3曲: ロ短調。前奏曲  プレスティッシモ・スタッカート、12/8拍子。両手のスタッカート奏が特徴の激しい気分の音楽。フーガ アレグロ・コン・ブリオ、4/4拍子。主題は f で奏され、力強い性格をもっている。
第4曲: 変イ長調。前奏曲  コン・モート、6/8拍子。穏やかな伴奏の上に歌曲のような美しい旋律が二重唱のように歌われる。フーガ コン・モート・マ・ソステヌート、2/2拍子。主題は穏やかに低音に現れるが、un poco animato となり、流れが良く活気のある音楽に変化する。
第5曲: ヘ短調。前奏曲  アンダンテ・レント、2/4拍子。連続する和音伴奏の上に悲痛な気分のメロディーが歌われる。フーガ アレグロ・コン・フオーコ、6/8拍子。C音の連続と走り回るような16文音符で構成される印象的なテーマ。第1番と共に演奏される機会が多い名作である。
第6曲: 変ロ長調。前奏曲  マエストーソ・モデラート、6/4拍子。厚みのある伴奏にのって和音を用いたメロディーが歌われる。リスト作品に見られるような響きとも言えるだろう。フーガ  アレグロ・コン・ブリオ、4/4拍子。主題は力強い16分音符の上行形とバロック風の付点音符の組み合わせである。

無言歌集(1830-45)  ・・・下線の表題は作曲者によるもの。ロマン派の「性格的小品」の一つの典型と言える。各曲集は8曲ずつで構成され全48曲。表題については作曲者がつけたものもあるが、他者によって付けられたものが多い。作曲者は標題をつけることを嫌っていたとする説があるが、広く知られているという意味でここには掲載しておく。

Heft 1, Op.19
第1曲(「甘い思い出」) ホ長調、アンダンテ・コン・モート、4/4拍子。アルペッジョによる伴奏形の上にメロディーが歌われる。第13、42小節などにみられる非和声音の扱いにメンデルスゾーンらしい味わいが感じられる。
第2曲(「後悔」) イ短調、アンダンテ・エスプレッシーヴォ、3/8拍子。二重唱のスタイルと言える。コーダでの低音の表現に特徴がある。
第3曲 (「狩の歌」「狩人の歌」) イ長調、モルト・アレグロ・エ・ヴィヴァ−チェ、6/8拍子。基本的には合唱曲のスタイルと言えるが、ときおり管弦楽的な響きも見せ、コーダではピアニスティックな技巧的パッセージも現れる。
第4曲 (「信頼」「ないしょ話」) イ長調、モデラート、4/4拍子。前奏、後奏をもつ歌曲的なスタイル。
第5曲 (「不安」「眠れぬままに」) 嬰ヘ短調、ピアノ・アジタート、6/4拍子。嬰へ長調の第2主題を持つソナタ形式と思えるが再現部では第1主題は現れない。古典派でも再現部で第1主題から始まらない曲はクレメンティやモーツァルトにあったが、その場合は最後に第1主題が出てきたりしていたので、性格的小品という様式の中で新しさを考えたと言えるであろうか。
第6曲 「ヴェネツィアのゴンドラの歌」 嬰ヘ短調、アンダンテ・ソステヌ−ト、6/8拍子。3曲ある同名の作品の第1作。オペラの二重唱を思わせる美しい小品である。

Heft 2, Op.30
第1曲(「瞑想」)変ホ長調、アンダンテ・エスプレシーヴォ、4/4拍子。3連符の伴奏が全曲を支配する。中間部で変ホ短調〜変ト長調へと転調する部分にロマン主義的で見事な感情表現が感じられる。
★演奏上の注意点: 旋律が伴奏より低い音域を演奏する部分があり、対位法作品をピアノで演奏する時と同じような注意が必要である。
第2曲(「心配」「安らぎもなく」)変ロ短調、アレグロ・ディ・モルト、6/16拍子。メロディーが内声にある。再現する前にリタルダンドがかかることと、コーダが変ロ長調へと変化することが特徴。そのコーダで第88〜89小節の和声進行が独特である。
第3曲(「なぐさめ」)ホ長調、アダージョ・ノン・トロッポ、4/4拍子。Op.19-4と同じく前奏後奏のついた歌曲風作品。第11小節からの和声にメンデルスゾーンの個性が感じられる。
第4曲(「さすらい人」「道に迷って」)ロ短調、アジタート・エ・コン・フオーコ、3/8拍子。伴奏が速い和音の連続になっている作品。コーダで伴奏が細かく変化する部分が不安な感情を表しているようだ。
★演奏上の注意点: ヘンレ版の付録にイギリス初版が掲載されているが、主題のアーティキュレイションが異なっている他、第60小節以降、および第119小節以降に相違がみられる。
第5曲(「小川」)ニ長調、アンダンテ・グラツィオーソ、2/4拍子。トリルを含んだ細かい動きの伴奏の上にオクターヴで旋律が歌われる。再現部に戻る際の和声が、嬰ヘ短調の第二転回形和音からニ長調へ戻るように書かれているのが一つの特徴。
第6曲 「ヴェネツィアのゴンドラの歌」嬰ヘ短調、アレグレット・トランクィロ、6/8拍子。序奏の右手に現れる Eis-Gis の動機がクライマックスを築く要素となるなど熟練した手法が見られる。随所に現れるトリルも美しい。

Heft 3, Op.38
第1曲(「宵の明星」「夕べの星」)変ホ長調、コン・モート、12/8拍子。3連符の伴奏形を両手で担当する形。第17〜20小節、第48〜51小節などで、和声が長調に行くのか短調なのか決まらないような感じがするところが面白い。
第2曲(「過ぎ去った幸福」「失われた幸福」)ハ短調、アレグロ・ノン・トロッポ、2/4拍子。伴奏和音が常に裏拍で奏される形。再現部へ入る際に少しずつ上行して行き、主題を第一転回形で登場させたのちにクライマックスに達する、という手法がみられる。
第3曲(「詩人のハープ」)ホ長調、プレスト・エ・モルト・ヴィヴァーチェ、3/4拍子。伴奏は6連符で奏され、流れが美しい作品。第43小節で再現部に入るかと思わせるが、その後の第46小節で嬰へ短調となる部分に工夫がみられる。
第4曲(「希望」)イ長調、アンダンテ、4/4拍子。前奏後奏を持つ合唱曲の雰囲気。
第5曲(「熱情」)イ短調、アジタート、12/8拍子。拍裏に和音伴奏が入る急速なテンポの作品。
第6曲 「二重唱」変イ長調、アンダンテ・コン・モート、6/8拍子。最初は高音部、続いて低音部と旋律が歌われ、再現部でユニゾンとなる。曲集での傑作のひとつ。

Heft 4, Op.53
第1曲(「岸辺にて」「海辺で」)変イ長調、アンダンテ・コン・モート、12/8拍子。下行するアルペッジョの伴奏で非常に美しい旋律が歌われる。コーダでオクターヴになるあたりは何となくシューマンの音楽との共通性を感じさせるし、最後にオクターヴ上行して終止するところはオペラのアリアのようである。
第2曲(「浮雲」)変ホ長調、アレグロ・ノン・トロッポ、3/4拍子。3連符の和音が連続する伴奏に乗せて歌われる旋律は上行下行を繰り返すがそのあたりにタイトルが付けられた理由があるのかも。第5小節左手の「Es-D-H」進行が次に現れる時には「Es-Des-H」となっているなど細かい音使いの工夫が素晴らしい。
第3曲 (「胸さわぎ」)ト短調、プレスト・アジタート、6/8拍子。テンポ標示のまま「プレスト・アジタート」と呼ばれることもある。激しい感情を表すかのような伴奏形で始まるが、女性三部合唱を思わるメロディーは非常に美しいものである。そして強弱の変化が多く、心の動きを感じさせる。
第4曲 (「悲しい心」「心の悲しみ」)ヘ長調、アダージョ、9/8拍子。始まりは穏やかだが第9小節以降で悲痛な sf で和音が奏されるところに表題の意味があると思われる。
第5曲 「民謡」イ短調、アレグロ・コン・フオーコ、4/4拍子。合唱曲を思わせる。後半は左手がオクターヴ進行になり壮大な音楽となるが最後は静かに曲を閉じる。
第6曲 (「飛翔」「飛躍」)イ長調、モルト・アレグロ・ヴィヴァーチェ、6/8拍子。リストの超絶技巧練習曲 No.12 を思わせるような両手によるトレモロの伴奏。コーダが長く、演奏効果に満ちた一曲である。

Heft 5, Op.62
第1曲(「五月のそよ風」)ト長調、アンダンテ・エスプレシーヴォ、4/4拍子。テーマが2回目でロ短調に転調、そこからヘ長調〜イ短調〜ハ長調と変化していく。長短調の使い分けが見事だと思う。
第2曲(「出発」)変ロ長調、アレグロ・コン・フオーコ、12/8拍子。テーマは和音で演奏される。明るく元気な気分だが、この曲も短調に転じるところ(第15小節以降)が素晴らしい。
第3曲 (「葬送行進曲」)ホ短調、アンダンテ・マエストーソ、2/4拍子。 寂しさの中にも澄んだ空気を感じさせる作品で, 豊かな和音の響きは彼の交響曲の緩徐楽章を思わせる。
第4曲 (「朝の歌」)ト長調、アレグロ・コン・アニマ、9/8拍子。合唱曲風の音楽。メンデルスゾーンの特徴の一つと思われるが、例えば第15小節に見られるような和音の使い方に注目したい。
第5曲 「ヴェネツィアのゴンドラの歌」イ短調、アンダンテ・コン・モート、6/8拍子。同じタイトルが付けられた無言歌の中では音の広がりの豊かさを見せる1曲と言える。
第6曲 (「春の歌」)アレグレット・グラツィオーソ、2/4拍子。アルペッジョの伴奏の美しさが際立った一曲で、 爽やかで憧れに満ちたメロディーである。 ペダル用法について、ヘンレ版には指示がなく、ウィーン原典版だと1拍目裏で上げるように指示がある。校訂報告を読むと自筆資料が広範囲に存在するとのことで、なかなか複雑な問題のようだ。

Heft 6, Op.67
第1曲(「期待」「瞑想」)変ホ長調、アンダンテ、4/4拍子。ゆったりした伴奏の上に美しい旋律が歌われる。特徴的なのは中間部でト短調〜変ロ長調〜変ト長調と色彩感豊かな転調を見せる部分だ。
第2曲(「失われた夢」「失われた幻影」)嬰ヘ短調、アレグロ・レッジェロ、12/16拍子。アウフタクトの開始だが実際にはそのように聞こえないような作りになっている。ピツィカートを思わせる軽やかな伴奏が特徴。再現部では二重唱となり、きわめて美しいピアニズムとなる。
第3曲(「巡礼の歌」)変ロ長調、アンダンテ・トランクィロ、2/4拍子。伴奏はシンコペーションで影のように旋律を支える。
第4曲(「紡ぎ歌」「蜜蜂の結婚」)ハ長調、プレスト、6/8拍子。非常に技巧的に作られた1曲。「紡ぎ歌」というタイトルはプレストだと速すぎるのだが、音型がシューベルトの「糸をつむぐグレートヒェン」に似ていることから付けられたと思われる。
第5曲(「羊飼いの嘆き」「羊飼いの訴え」「羊飼いの歌」)前奏、後奏を持つ歌曲風。和声の使い方にメンデルスゾーンらしい細かい工夫が見られるほか、第30小節以降の情感の表現が素晴らしい。
第6曲(「子守歌」)ホ長調、アレグレット・ノン・トロッポ、3/8拍子。かわいらしい踊りを思わせる旋律で、特に主題3拍目に付けられた前打音にその特徴があり、第58〜60小節及び第104〜108小節で強調されている。中間部での情緒の変化が印象的である。

Heft 7, Op.85
第1曲(「夜の歌」「夜曲」「夢」)ヘ長調、アンダンテ・エスプレシーヴォ、2/4拍子。穏やかなアルペッジョの伴奏。印象的なのはコーダ直前、第38小節がシューベルトの「アヴェ・マリア」に似た旋律になっていることと、その次の第39小節からの伴奏で「F-E-Es-D」という進行が見られることである。
第2曲(「別れ」)イ短調、アレグロ・アジタート、4/4拍子。2声が重唱のように歌われてゆく。主題が再現する際に、ドラマティックに半終止から導かれる特徴をもつ。
第3曲(「熱狂」「狂乱」「うわごと」)変ホ長調、プレスト、4/4拍子。伴奏が16分音符の連続形。第9小節に con fuoco と書かれていること、第21小節からの動機の繰り返しなどから、情熱的に演奏する曲であることが理解できる。
第4曲(「悲歌」)ニ長調、アンダンテ・ソステヌート、4/4拍子。名作のひとつ。中間部で短調に向かうところ、そして再現部が原調ではなく嬰ヘ短調から開始されるところがとりわけ美しい。
第5曲(「帰郷」「問と答」)イ長調、アレグレット、4/4拍子。合唱曲のスタイル。冒頭の付点音符の動機が特徴的である。
第6曲(「旅人の歌」)変ロ長調、アレグレット・コン・モート、2/4拍子。右手でスタッカートの和音伴奏とメロディーを弾き分ける形になっている。
★ 演奏上の注意点: Henle版ではドイツ初版とCarl Klingemanによる写譜版が掲載されており、第34小節以降でかなり音が違っている。そして36小節めの低音部にG音の前打音があるが、ブライトコップ版などでは書かれていない。

Heft 8, Op.102
第1曲(「家もなく」「寄る辺なく」)ホ短調、アンダンテ ウン・ポコ・アジタート、4/4拍子。有名なヴァイオリン協奏曲に似た旋律が登場するので知られている一曲。和音の厚みが特徴的である。
第2曲(「追想」「追憶」)弦楽四重奏曲の感情楽章を思わせる作品。
★ 演奏上の注意点: Henle版およびウィーン原典版の付録に異稿が掲載されており、序奏が付けられているなどの相違点がみられる。
第3曲(「タランテラ」「乗馬」)器楽曲の雰囲気が強いが、ロッシーニにこんな感じの速いか曲があったように思える。メンデルスゾーンはロッシーニと会ったことがあるらしい。詳しくは武川寛海『音楽史の休日』を・・・
★ 演奏上の注意点: Henle版(1981)で第19小節右手3つ目の8分音符が Gis になっているがおそらくミスプリントと思われる。全集版(ブライトコップ版・ペータース版)、ウィーン原典版では G になっており、各原典版の校訂報告ではこの箇所については書かれていない。
第4曲(「そよかぜ」)ト短調、アンダンテ・ウン・ポコ・アジタート、4/4拍子。メロディーはト短調ではなく変ホ長調に向かうように登場する。抒情的なイタリア歌曲を思わせるような美しい作品。
第5曲(「楽しい農夫」「子供のための小品」)イ長調、アレグロ・ヴィヴァーチェ、2/4拍子。常に伴奏が裏拍で奏される形。軽快な曲想である。
第6曲(「信仰」)ハ長調、アンダンテ、4/4拍子。コラール前奏曲、あるいは宗教曲的な曲想。この曲集の最後を飾るにふさわしい厳かな作品である。

幻想曲 嬰へ短調 (スコットランド風ソナタ)Op.28(1833)
3つの楽章が続けて演奏され、劇的な展開が魅力的である。
第1楽章 コン・モート・アジタート〜アンダンテ、嬰ヘ短調、2/4拍子。ソナタ形式。テンポはさらに「コン・モート・アジタート」からアッチェレランドの後にアレグロへと変化し、主題が再現する。幻想曲的な性格。
第2楽章 アレグロ・コン・モート、イ長調、2/2拍子。三部形式。
第3楽章 プレスト、6/8拍子、ソナタ形式。

3つの奇想曲 Op.33 (1834/35)
第1曲 アダージョ・クワジ・ファンタジア〜プレスト、イ短調。3連符のパッセージが続き、その中に哀愁を帯びた旋律が歌われてゆく。
第2曲 アレグロ・グラツィオーソ ホ短調(序奏)〜ホ長調。低声部にメロディーが歌われる部分が非常に魅力的である。
第3曲 アダージョ 変ロ短調(序奏)〜プレスト・コン・フオーコ。重々しい雰囲気の序奏部と情熱的な主部との対照が見事である。

3つの前奏曲 Op.104a(1836)
「Op.104 Heft 1」と表記した楽譜もある。
第1曲: アレグロ・モルト・エ・ヴィヴァーチェ、変ロ長調、2/2拍子。オクターブが多く力強い性格。
第2曲: アレグロ・アジタート、ロ短調、4/4拍子。32分音符の速い動きの上にオクターヴで旋律が奏される技巧的音楽。
第3曲: アレグロ・ヴィヴァーチェ、ニ長調、4/4拍子。駆け降りるような音階が特徴で、行進曲調のメロディーをもつ。

3つの練習曲 Op.104b (1836,34,38)
「Op.104 Heft 2」と表記してある楽譜もある。
第1番: プレスト、変ロ短調、4/4拍子。タールベルク的な内声に旋律が歌われるスタイル
第2番: アレグロ・コン・モート、ヘ長調、12/8拍子。急速な3連符による音楽、
第3番: アレグロ・ヴィヴァーチェ、イ短調、4/4拍子。左手の分散和音と右手の和音の動きを組み合わせた面白さが特徴である。

スケルツォ・ア・カプリッチョ  嬰へ短調 (1835)
「真夏の世の夢」序曲のような軽妙な楽想と言える。

ゴンドラの歌  イ長調 (1835)
無言歌集にある同名の作品と共通した曲想。

練習曲 ヘ短調(1836)
全体で3ページ。モシェレスとフェティスによる「Méthode des Méthodes」に掲載された作品で、「無言歌」や「奇想曲 Op.33」などにも見られるテクニックが速いテンポで演奏するように作られている。

音楽帳  ホ短調 Op.117 (1837)
伴奏はノクターン風だがAllegroでさわやかな情緒である。

奇想曲  ホ長調 Op.118 (1837)
抒情的なアンダンテと活気に満ちたアレグロ。「ピアノ協奏曲ト短調」と似ている楽想も出てくる。

無窮動 ハ長調  Op.119 (1837)
他にもこのタイトルがふさわしい曲はある。メンデルスゾーンの個性がよく出ている作品。

アンダンテ・カンタービレとプレスト・アジタート (1838)
ロ長調〜ロ短調という調で構成される。アンダンテ・カンタービレの旋律は Op.14 を思わせるところがある。プレスト・アジタートはメロディーが美しいことに注目したい。

厳格な変奏曲 ニ短調 Op.54 (1841)
当時流行のヴィルトゥオーソ的「華麗な変奏曲」とは違った方向を示す、ロマン派変奏曲の傑作のひとつ。

変奏曲 変ホ長調 Op.82 (1841)
主題(アンダンテ)と5つの変奏、コーダから構成されている。まとまりが良く、コーダの作り方も美しい。

変奏曲 変ロ長調 Op.83 (1841)
Op.82と同様の規模で、主題(アンダンテ・トランクィロ)と5つの変奏、コーダで構成される。この曲には連弾版もあり.「Op.83a」と区別されている。

子供のための小品集 Op.72(1842)
易しい技巧で演奏できるように書かれた小品集。作曲年が1842で正しいければシューマンの「子供のためのアルバム」より早い時期に作られている。
第1曲:アレグロ・ノン・トロッポ、ト長調、3/4拍子。基本的に4声体で書かれている。マズルカ風のリズムと、中間部での保続音が特徴。
第2曲:アンダンテ・ソステヌート、変ホ長調、2/4拍子。短い序奏に続き、無言歌風の旋律が歌われる。
第3曲:アレグレット、ト長調、2/4拍子。第1曲と同じく和声的に書かれた音楽だが、こちらはスタッカートが特徴となっている。
第4曲:アンダンテ・コン・モート、ニ長調、6/8拍子。弦楽四重奏曲を思わせる書法で、美しいメロディーである。
★ 演奏上の注意点:第2小節のA音をタイにしてある版(B&Hなど)とそうでない版(Petersなど)がある。
第5曲:アレグロ・アッサイ、ト短調、4/4拍子。全体的にスタッカートの和音が支配する曲。
★ 演奏上の注意点: ヘンレ版では異稿を掲載しており、拍の位置が異なっているので注意が必要。
第6曲:ヴィヴァーチェ、ヘ長調、3/8拍子。この曲もスタッカートが特徴だが、第5曲よりも軽快さが目立っている。

2つの小品 (1860年出版)
第1曲: アンダンテ・カンタービレ、変ロ長調、6/8拍子。無言歌風の美しい作品。
第2曲: プレスト・アジタート、ト短調、4/4拍子。エチュード風音楽で、16分音符の激しい動きが特徴である。

 ピアノ協奏曲 

ピアノ協奏曲第1番 ト短調 Op.25 (1832)
ロマン派ピアノ協奏曲の名作の一つ。8小節目からピアノが登場、その後も管弦楽をリードするように音楽を進めていく。ピアニスティックな演奏効果に富む第1楽章 Molto allegro con fuoco、詩情に満ちた第2楽章 Andante、そして華麗な技巧を示す第3楽章 Presto、いずれもメンデルスゾーンの音楽の特徴を最大限に表している。

ピアノ協奏曲第2番 ニ短調 Op.40 (1837)
第1番と異なり音楽は静かな開始を見せるが、その後は「Allegro appassionato」が示す通り情熱的な音楽が展開される。切れ目なく演奏される第2楽章はAdagio Molto sostenuto で幸福感に満ちた音楽である。アタッカで第3楽章 Presto scherzando に続けられる。和音のスタッカートが特徴の主題ののち、ピアノが分散和音で華やかに演奏してゆく。いずれも明るく元気な音楽である。ニ短調がフィナーレでニ長調に転調するところ、そしてピアノの華麗な技巧から、同じ調で書かれた「ピアノ三重奏曲第1番」と共通する気分を感じる人も多いことかと思う。

華麗なカプリッチョ Op.22(1832)
単一楽章によるピアノとオーケストラ作品。アンダンテの序奏部(ロ長調、4/4拍子)とアレグロ・コン・フオーコの主部(ロ短調、4/4拍子)から構成される。行進曲調の第2テーマが印象的である。

華麗なロンド Op.29 (1832)
プレスト、変ホ長調、6/8拍子。単一楽章の作品で、ロマン派らしいピアノの華やかなテクニックが素晴らしい作品。

セレナーデとアレグロ・ジョジョーソ Op.43(1838)
セレナードはアンダンテ、ロ短調、6/拍子。独奏ピアノで哀愁を帯びたメロディが奏でられる。アレグロ・ジョジョーソ(ニ長調、2/4拍子)に入るとメンデルスゾーンらしい明るく華やかな音楽となる。 なお、「giojoso」は一般的なイタリア語辞典には載っていない語で、これを「ジョコーソ」と表記してある事典(「平凡社音楽大事典」「標準音楽辞典」など)もあるがひょっとすると「gioioso(伊:楽しげに)」をドイツ語的に綴ったのかという疑問もある。何語なのかも含めて現在調査中。

 ピアノを含む室内楽曲 

ピアノ三重奏曲第1番 ニ短調 Op.49 (1839)
ピアノ三重奏曲第2番 ハ短調 Op.66 (1845)

ピアノ四重奏曲(第0番)ニ短調 (1821年)
ピアノ四重奏曲第1番 ハ短調 Op.1(1822年)
ピアノ四重奏曲第2番 ヘ短調 Op.2(1823年)
ピアノ四重奏曲第3番 ロ短調 Op.3(1825年)

チェロ・ソナタ第1番
チェロ・ソナタ第2番
協奏風変奏曲 Op.17
無言歌 ニ長調 Op.109


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