ベートーヴェンの歌曲作品
特徴および演奏を聴いた感想をまとめてあります。
| Op番号 | WoO番号 | 作曲年 | 曲名 | 特徴・感想 |
| 107 | 1783 | リート 乙女を描く |
快活で簡素な旋律と和声で、素朴な少年らしさが使わってくる、と評されるが、f、ffが多いこととT.14の激しいピアノのパッセージに注目。 | |
| 108 | 1784 | リート みどり子に寄せて |
「アリオーソ」と表記されていることから、ジングシュピールの挿入歌曲のようなものを意図していたようだと指摘されている。前奏にf、pの強弱が指示されていること、中間部の属調への転調、歌いおさめ箇所のふくらみの工夫、などに注目したい。全体的には穏やかでロココ風の音楽である。 | |
| 52-1 | 1789 | リート ウーリアンの世界旅行 |
ウーリアン(独唱)がこれまで旅行した世界各地の話を次々と歌うと、聞き手(合唱)が合いの手を入れる。それを短調と長調の交替で面白く歌う作品。民謡風の旋律である。 | |
| 52-6 | 1790 | リート 愛 |
歌と伴奏の右手はユニゾン。アルベルティ低音を用いて古典的で簡潔な音楽である。 | |
| 52-7 | 1790 | リート マーモット |
ハーディガーディ、あるいは手回し風琴を思わせる保続音は旅芸人の語りを表現しているようである。リフレインはフランス語。マーモット(マルモット/Marmot)とは、ヨーロッパやアジア、北米などの高地や山岳地帯に生息するげっ歯目リス科の動物。アルプスマーモットとも呼ばれる。飼い慣らしやすく芸を覚えることから、昔のヨーロッパでは、大道芸や客寄せの演目に盛んに用いられていた。フランスの詩人ヴィクトル・ユーゴーの小説『レ・ミゼラブル(ああ無情)』(1862)にも、マーモット使いの少年が登場するくだりが見られる。 | |
| 113 | 1790 | リート 嘆き |
主部E-durから中間部e-mollへの変化が美しい。ボン時代の佳作の一つ。 | |
| 89 | 1790 -92頃 |
アリア 口づけの試練 |
ボンの優れたバス歌手、ルックスのための書かれたと思われるアリア。 | |
| 90 | 1790 -92頃 |
アリア 娘たちと仲良く |
作品の内容などからバス歌手ルックスのために書かれたと言われる、ユーモアにみちたアリア。 | |
| 109 | 1792 | リート 喜びの手もてグラスをあげよ |
独唱の最後を合唱が繰り返す、酒の歌の典型。冒頭は「魔笛」のパパゲーノのアリアに似ているとも言える。 | |
| 111 | 1792 | リート ポンス酒の歌 |
前のWoO109と同じく、ベートーヴェンがウィーンに旅立つ時に仲間と歌われた可能性のある歌。 | |
| 112 | 1792 | リート ラウラに |
ベートーヴェンとして初めての大規模歌曲。抒情的な主部の後、レチタティーヴォとなり劇的な展開をみせる。 | |
| 115 | 1792 | リート ミンナに |
未完成作品とされるもの。民謡風で、素直に愛の喜びが歌われている。 | |
| 52-3 | 1793 | リート 憩いの歌 |
4小節ごとに伴奏を変化させている。弱音で情感が歌われる美しい作品。 | |
| 114 | 1793 | リート ひとりごと |
伴奏が目まぐるしく動く左右の8分音符。ユーモアに満ちた楽想はシューベルトの「Abschied」をどこか思い出させる。 | |
| 116 | 1793 | リート 時は長く 第1稿 |
ジャン・ジャック・ルソーの詩に基づいた歌曲。ヘンレ版の新全集で見ることができる。第1稿はハ短調、6/8拍子、24節ほど。フランス語の響きが独特で美しく、しばしば伴奏などを補完して歌われる。なお第2稿は「Hess130」。 | |
| 52-2 | 1794 | リート 炎の色 |
奇数節と偶数節が別のメロディー、という工夫がなされている。 | |
| 117 | 1794 | リート 自由な男 第2稿 |
独唱とコーラス、という形式。「自由な男は?」と独唱が問いかけ、合唱が答える。 | |
| 119 | 1794 | カンツォネッタ おお、いとしき森よ |
歌詞はメタスタージオ「オリンピアーデ」から。 ※「小さなカンツォーネ」/イタリア語のテキストによる歌曲。 |
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| 52-4 | 1795 | リート 五月の歌 |
ベートーヴェン最初のゲーテ歌曲。3節の詩による変化有節歌曲。 | |
| 52-5 | 1795 | リート モリーの別れ |
おそらくボン時代に書かれたと思われる愛らしい1曲。後奏のピアノの32分音符パッセージが美しい。 | |
| 110 | 1795 | リート プードル犬の死に寄せる哀歌 |
第6節まで有節形式、第7節でテンポを速めて長調に転じ、伴奏も歌詞を反映してドラマティックな展開となる。 | |
| 118 | 1795 | リート 愛されない男のため息 ― 応えてくれる愛 |
ハ短調ーハ長調の長大な2部構成。「歓喜の歌」「合唱幻想曲」でも聴かれるベートーヴェンらしいメロディーが後半で現れる。 | |
| 123 | 1795 | リート 君を愛す |
有名な歌曲。原題は「優しい愛 Zärtliche Liebe」。 | |
| 46 | 1796 | リート アデライーデ |
歌詞詩人のマッティソンに高く評価された歌曲。第38小節の転調がいかにもベートーヴェンらしい。 | |
| 52-6 | 1796 | リート 小さな愛らしい花 |
右手と歌がユニゾンで、民謡調で歌われる。 | |
| 121 | 1796 | リート ヴィーン市民への別れの歌 |
フランス革命軍の脅威に対して立ち上がった義勇軍のために書かれた歌。作詞のフリーデルベルク(義勇軍兵士)は1800年に死亡。 | |
| 124 | 1796 | リート 別れ |
イタリア語による歌曲。短いが劇的内容を持つ。 | |
| 122 | 1797 | リート オーストリア軍歌 |
WoO121と同じフリーデルベルクの詩に書かれた。ヴィーン市民軍がヴィーン近郊の塹壕へ出発する際に書かれた。 | |
| 126 | 1798 | 奉献歌 改定稿 | ゲレルト歌曲にも通じる至高者への賛美が歌われる。 | |
| 125 | 1799 | リート 女暴君 |
英語詩による歌曲。悲劇的アリアのようだが「大袈裟な古めかしい音楽の衣を着せたユーモアを聴きとろう」という『ベートーヴェン事典』の解説が面白い。 | |
| 127 | 1799 | リート 新しい恋、新しい生 第1稿 |
後にOp.75-2として改編された作品。 | |
| 128 | 1799 | リート 愛の喜び |
フランス民謡の編曲。子守歌風で愛らしい歌曲。 | |
| 120 | 1801 | リート 人は炎を隠したがる |
モーツァルト風の恋の歌。 | |
| 92 | 1801-02 | シェーナとアリア 初恋 |
サリエリに師事していた頃の作品と考えらえている。 ※「シェーナscena」は「オペラにおける一種の伴奏つき叙唱で、所々に旋律が入るか、又は普通のアリアがつゞく劇的性格のもの。劇唱ともいう(『音楽辞典 楽語』) |
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| 92a | 1801-02 | シェーナとアリア いいえ、心配しないで |
サリエリに師事していた頃の作品と考えらえている。 |
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| 48 | 1802 | ゲレルトの詩による6つの歌 | 第1曲<祈り>宗教色の強い歌曲で、オルガンを思わせる伴奏/第2曲<隣人の愛>冒頭和音とダルセーニョ記号の意味がしばしば議論されている/第3曲<死について>伴奏は単音から次第に音を厚くして減七和音を形成。死をモティーフとした厳粛な曲想/第4曲<神の力と摂理>力強い和音にのせて天の威光を歌う/第5曲<神の力と摂理>朗らかな神への賛美/第6曲<懺悔の歌>長大で後半は変奏的に展開。 | |
| 93 | 1802-03 | 二重唱 お前の幸せな日々に |
サリエリのもとでの修業の修了直後の作品と言われる。 | |
| 88 | 1803 | リート 人生の幸せ(友情の幸せ) |
有節歌曲風で自由な形式。フリーメイスン風の内容を歌った歌曲で、「第9交響曲」を思わせる。 | |
| 129 | 1803 | リート うずらの鳴き声 |
うずらの鋭い鳴き声は、神の警告の声として宗教詩などで歌われていた。その声を付点の動機で表し、見事に展開させた規模の大きい歌曲。嵐や戦争の描写が直接的になされていることに注目。 | |
| 32 | 1805 | リート 希望に寄せて 第1作 |
オペラ『レオノーレ』第2幕の三重唱の作曲中に、おそらく第2幕で歌われる「希望」の光に満たされて書かれたと思われる(『ベートーヴェン事典』)。ピアノ伴奏は「月光ソナタ」を思わせるところがある。 | |
| 130 | 1805 | リート 僕を想っていて |
ルードルフ大公のための練習課題としてメートリングで作曲されたことが最近になって分かったとされる。冒頭の歌詞を繰り返す内容だが、実に美しい。 | |
| 132 | 1806 | リート 恋人が別れたいと思った時 |
変奏有節形式。モーツァルトの<別れの歌>に影響を受けたとする説がある。 | |
| 134 | 1808 | リート 憧れ 全4作のうち第1-3作 |
歌詞は「ヴィルヘルム・マイスターの修業時代」より。 | |
| 136 | 1808 | リート 想い |
ダイム伯爵夫人ヨゼフィーネとの関係が指摘されている曲。美しいメロディーで知られている1曲。 | |
| 75-1 | 1809 | リート ご存知ですか、あの国を |
ゲーテの小説「ヴィルヘルム・マイスターの修業時代」第3部冒頭のミニヨンの歌。シューベルト、シューマンにもこの詩による歌曲があるがベートーヴェンの歌曲は「比類ない高潔さを感じさせる:」(『ベートーヴェン事典』)。 | |
| 75-2 | 1809 | リート 新しい恋、新しい生 第2稿 |
改訂版では歌唱声部に新しい部分を追加、伴奏の充実などがみられる。歌詞と音楽が見事に一体化した名作と言える。 | |
| 75-3 | 1809 | リート ゲーテのファウストから“蚤の歌” |
メフィストフェレスの風刺歌。ドラマティックで面白い表現が特徴。 | |
| 75-4 | 1809 | リート グレーテルの警告 第2稿 |
柔らかい曲調で女性の心理を歌う。 | |
| 75-5 | 1809 | リート 遥かな恋人に |
単純で短いが、別れた恋人への思いを歌った佳作。ベートーヴェンは最後の言葉を反復する稿も残しているが、一般には反復なしで歌い納める稿が知られている。 | |
| 75-6 | 1809 | リート 満ち足りた男 |
4節の詩による有節歌曲。つつましく単純な構成をとりながら、前奏と間奏、それに最後の詩行あたりに桑めて喜ばしい調子の音楽を挿入。これによって「ささやかに満ち足りている」ことを音楽で見事に表現した(『ベートーヴェン事典』)。 | |
| 137 | 1809 | リート 遥かよりの歌 |
ひめやかな憧憬を希望に満ちた変奏形式で歌い上げ、詩も音楽も「遥かな恋人に寄せてOp.98に通じる(『ベートーヴェン事典』) | |
| 138 | 1809 | リート 異郷の若者 |
6節の有節歌曲。最初にライシッヒの「遥かよりの歌」4節に作曲したがそのあとで第2稿として改定、第1項の方は音楽はそのまま、詩だけを同詩人の「異教の若者」に置き換えたもの。 | |
| 139 | 1809 | リート 恋する男 |
ゲーテの「新しい恋、新しい生」を思わせる心の鼓動を歌う。伴奏の分散和音がは華やかな効果を出す。緊迫感のある減7和音、感情の起伏を表す強弱記号なども特徴。 | |
| 82 | 1809-10 | 4つのアリエッタと 一つの二重唱 |
イタリア語歌曲集。曲名の括弧書きはドイツ語のもの。第1曲<言っておくれ愛しい人(希望)>、第2曲<お前のことはよく分かる(愛の嘆き)>、第3曲<待ち焦がれる恋人(ひそやかな問い)>、第4曲<待ち焦がれる恋人(恋の苛立ち)>、第5曲<きいて甘いため息を(人生の喜び)>二重唱。 | |
| 83 | 1810 | ゲーテによる3つの歌 | 第1曲「愁いの喜び」:静かな情感に満ちた傑作/第2曲「あこがれ」:伴奏を徐々に変化させて、短調から長調に転じるベートーヴェンらしい構成/第3曲「ばら模様のリボンで」:軽やかな伴奏の分散和音が素晴らしい。 | |
| 134 | 1810 | リート あこがれ |
1808年に作曲された作品の第4作。 | |
| 140 | 1809 | リート 恋人に寄せて 第2稿 |
2節詩を用いた通作歌曲。伴奏の改編により、一層表情豊かな作品となった。第2稿は第1稿の3連符を右手と左手に振り分けて展開的に改訂したもの。 | |
| 152 | 1809 -12 |
25のアイルランド歌曲集 | 民謡の編曲 | |
| 141 | 1813 | リート ナイチンゲールの歌 |
夜鶯の鳴き声をピアノ伴奏で模倣する、童謡風の歌曲。 | |
| 142 | 1813 | リート 吟遊詩人の亡霊 [吟遊詩人バルデの霊] |
歌唱旋律は6度の音程内で歌われる。作詞者のフランツ・ルドルフ・ヘルマン(1787-1823)は詩劇「ニーベルンゲン」で知られる詩人で、「Barde」とは古代のケルトの吟遊詩人を指す。暗く寂しい楽想はのちのブラームスを思わせる。 | |
| 153 | 1809 -13 |
20のアイルランド歌曲集 | 民謡の編曲 | |
| 154 | 1812 -13 |
12のアイルランド歌曲集 | 民謡の編曲 | |
| 155 | 1809 -15 |
26のウェールズ歌曲集 | 民謡の編曲 | |
| 140 | 1814 | リート 恋人に寄せて 第3稿 |
第3稿は1814年作曲。伴奏が単純な形となり、歌詞の意味が率直に伝わるようになった(『ベートーヴェン事典』)。 | |
| 143 | 1814 | リート 兵士の別れ |
「愛に燃えて出陣だ。だが涙なしに行こう。腕は祖国、心は愛しき人のもの、真の勇者は恋人のために燃え、戦場では祖国のために死するのだ」/1814年、ヴィーン会議の年に書かれた。 | |
| 144 | 1814 | リート メルケンシュタイン 第1作 |
ルプレヒトの詩に作曲された。「メルケンシュタイン」とはバーデン近くの山岳地の中腹に立つ古城。 | |
| 94 | 1815 | リート 希望に寄せて 第2作 |
前作(Op.32)で省略された詩の第1節をレチタティーヴォとし、通作で長大な歌曲とした。伴奏が歌詞の情緒に応じて多彩に変化する。 | |
| 100 | 1815 | 二重唱 メルケンシュタイン (第2作) |
二つの声部が3度、6度で動くもので、WoO144と同じ詩に基づく。 | |
| 135 | 1815 | リート 声高な嘆き 第2稿 |
歌詞大意: きじ鳩よ、お前は声高く鳴いてこの哀れな者から唯一の慰めである忘却の眠りを奪う。私も悲しいのだよ。だが私はそれを胸の奥に閉じ込めているのだ。/孤独な悲しさを表現した歌曲。 | |
| 98 | 1816 | 連作歌曲 遥かな恋人に寄せて |
6曲の連作歌曲集。終止線を用いず連続して演奏される形式が独特で、第1曲の最後で「nacn und nach geschwinder(stringendo)」となって心の動きを表現するなどロマン的な内容となっている。 | |
| 99 | 1816 | リート 約束を守る男 |
歌詞詩人はヴィーンの警察署長(官吏と書いてある本もある)。正義、信念、ドイツ人らしさなどが直接的な歌詞で表される。節の後半のcresc.が特徴的。 | |
| 145 | 1816 | リート 秘密(愛と真実) |
フェルマータで奏されるピアノのアルペッジョがどこか後期ピアノソナタを思わせる。 | |
| 146 | 1816 | リート 憧れ |
伴奏を変化させた有節歌曲。穏やかで美しい旋律で、伴奏も終始控えめである。 | |
| 147 | 1816 | リート 山からの呼び声 |
後期ピアノ作品にみられる音域の離れた書法が特徴的、民謡風の歌曲である。 | |
| 148 | 1817 | リート いずれにしても |
「北でも南でも」「都市でも田舎でも」「眠りでも死でも」などと達観した心境を軽妙な調子で歌う。 | |
| 149 | 1817 | リート あきらめ |
「不滅の恋人」との問題が再燃し、1年ほどで決定的な終焉を迎えたころの作品と考えられる(青木やよひ『ベートーヴェンの生涯』平凡社新書、pp.208?209)。 | |
| 108 | 1812 -18 |
25のスコットランド歌曲集 | 民謡の編曲 | |
| 158 | 1816 -18 |
23の諸国民謡 | 民謡の編曲(作曲年はセイヤー『ベートーヴェンの生涯』による) | |
| 156 | 1814 -20 |
12のスコットランド歌曲集 | 民謡の編曲 | |
| 157 | 1814 -20 |
12のさまざまな民謡歌曲集 | 民謡の編曲 | |
| 150 | 1820 | リート 星空の下の夕べの歌 |
後期歌曲の傑作。伴奏が歌詞に書かれた情景を暗示し。基本的に有節として作られた作品に見事な色どりを与える。 | |
| 151 | 1823 | リート 高貴なる人間は |
11小節の短い歌曲。ゲーテの言葉により、エスケレ(エスケレス)男爵夫人のゲストブックに書かれた曲。 | |
| 128 | 1798 /1822 |
アリエット くちづけ |
スケッチは1798年にさかのぼるが現存する二つの自筆楽譜は1822年ということだそうである。少年と少女の一場面が見事に描かれた佳作。 |
参考文献:
青木やよひ『ベートーヴェンの生涯』平凡社、2009
川村英司編 『ベートーヴェン歌曲集』 全音楽譜出版社、1971
セイヤー(エリオット・フォーブズ校訂、大築邦雄訳『ベートーヴェンの生涯<下>』音楽之友社、1974
平野昭/土田英三郎/西原稔編著 『ベートーヴェン事典』 東京書籍、1999
平野昭 『作曲家◎人と作品シリーズ ベートーヴェン』 音楽之友社、2012
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