| ● クラヴィーア・ソナタ | ||
| Hob.XVI | 調・作曲年 | 特徴・寸評・演奏上の注意点 |
| 1 | C-dur 1750年代初 |
第1楽章は単純明快なアルベルティ低音に基づく主題。雰囲気的にはモーツァルトの「ヴァイオリン・ソナタ第1番(KV.6、ピアノ独奏版あり)」を思い出させるものがある。 第2楽章は3連符が曲の大半を支配するハ長調のアダージョ、 第3楽章はハ長調のメヌエットで、ハ短調のトリオをもつ(調号は♭二つ)。 |
| 2 | B-dur 1766以前 |
第1楽章は明るくのびのびとした楽想だと思うが、2箇所気になるところがある。まず第2主題、第25小節の左手伴奏で「E(ナチュラル)」の音で、ウィーン原典版だと「ナチュラルのかわりに♭を置くことを勧めるが、これと類似した第112小節の場合は同様でない」とある。ここはE音でも悪くはないかと思ったが、第44-45小節に表れる平行4度は14世紀ころあった「二重導音」のようでこの時代としてはかなり珍しい。 第2楽章はト短調のラルゴで、エマヌエル・バッハの感情過多様式を思わせる楽章。第12小節などに見られる細かいリズムの変化などもなかなか美しいと思う。第49小節でウィーン原典版は「暗示されている装飾法」が示されており、当時の即興的装飾について考えさせられる。 第3楽章は変ロ長調のメヌエット。トリオは変ロ短調という珍しい調で書かれている。 |
| 3 | C-dur 1766以前 |
第1楽章の単純な伴奏形はHob.XVI/1などと共通するようにも思うが、第59小節で再現部と思われるがハ短調であるなど、Hob.XVI/6などと似たところもある。 第2楽章はト長調、アンダンテ。付点音符の動きや細かい装飾音、32分音符の特徴的な動きなどが見られる。 第3楽章はハ長調のメヌエット。トリオはハ短調である(調号は♭二つ)。 |
| 4 | D-dur
1766以前 |
第1楽章アレグロ、第2楽章メヌエットの二楽章構成。第3楽章(と第4楽章?)は「紛失したと考えられている」とする説もある。 第1楽章の主題がなかなか魅力的だと思う。その後でバッハの「平均律」第1巻No.1の前奏曲のようなパッセージ、そして3連符、6連符が特徴の第2主題。楽想は変化に富んでいる。 第2楽章は同じ調によるトリオをもつメヌエット。 |
| 5 | A-dur 1763以前 |
ウィーン原典版【旧版】の解説によれば「真実性は、強く疑われなければならない」ということで、その理由として「無関連に並んだフレーズや学習的な未熟な転調などの初歩的のな作曲法」と書かれている。 第1楽章で、その転調については演奏してみると第38小節から調号を変えてホ短調になるところなど面白いし、すぐに原調にもどり3連符の華やかなパッセージになる感じが明るく楽しい曲だと思う。ただ、展開部第77小節でD#が現れたすぐ後にA-durとなっていることにはやや違和感もある。 第2楽章はイ長調のメヌエットで、トリオがユニゾンで開始されるのが変わっている。 フィナーレはイ長調、プレスト。やはり途中で短調(今度はホ短調)に転調するのが特徴である。全体としては演奏効果もあり、佳作だと思う。 |
| 6 | G-dur
1766以前 |
第1楽章はアレグロだが、32分音符、3連符、付点16分音符、伴奏の連続和音などの細かいリズムが用いられている。面白いと思ったのは(この時期にしばしばみられることだが)第14小節、第43小節で突然短調に変わるところで、スカルラッティのソナタを思い出す。 第2楽章はメヌエット(ト長調)で美しいト短調のトリオをもつ。第3小節での複前打音は古典派的書き方だと「D-G-H」となるのだろうが「D-Fis-G-J]となっており、バロック風のアッチャカトゥーラのような音の選び方だと思う。 第3楽章はト短調のアダージョで、イタリアのバロック音楽を思わせる雰囲気だと思う。フィナーレはト長調、アレグロ・モルト。技巧的で華やかな楽章で、ここでも第23小節などに短調に転じる箇所がある。この作品は初期の中ではいつか演奏してみたい曲のひとつだと思った。 |
| 7 | C-dur
1766以前 |
全3楽章で3ページという規模。第1楽章は華やかな響きで始まりシンフォニックな音楽と言えるだろう。 第2楽章はメヌエットで、ハ短調のトリオをもつ(♭二つで表記)。 フィナーレで左手に表れる分散オクターヴが演奏効果を生み出していると思う。 |
| 8 | G-dur
1766以前 |
全4楽章で3ページ。第1楽章は40小節という長さである。ソナタ全体的にきれいな構造で、古典派らしい魅力を持っていると思う。弦楽器の響きを思わせるような印象もある。個人的には第3楽章の後半で短調に転じるところが好きである。 |
| 9 | F-dur
1766以前 |
明るく快活な第1楽章。第8小節に表れるシュライファー的動きに特徴がある。 第2楽章はメヌエットで、トリオは変ロ長調である。 フィナーレは「スケルツォ(アレグロ)」と題された楽章。フィナーレは短いスケルツォ。この楽章の最後から2小節目は、旧全集だと2拍目が「G-A-B-A-G-F-E-D-C【F-Eは32分音符】」、Henle版だと「G-A-B-G-F-E-D-C」)というような違いが見られる。このソナタも全部で3ページという規模である。 |
| 10 | C-dur
1750年代 |
第1楽章展開部で反復進行を用いて主題動機の発展が図られる。小結尾前のユニゾンの響きも新鮮。第2楽章トリオでは♭2つでハ短調を記譜しているがこれはバロック風。フィナーレはプレストで、規模が大きい。 |
| 11 | G-dur
|
新全集では「G1」という番号のソナタを真作としている。Hob.11の第1楽章は「G1」のフィナーレと同じ。第2楽章は抒情的なアンダンテ、第3楽章はメヌエット。 |
| G1 | G-dur
1766以前 |
ウィーン原典版では「第4番」。主題は32分音符アウフタクトに特徴がある。簡潔に書かれたメヌエットと、「Hob.11」の第1楽章と同じ楽章であるフィナーレ。ウィーン原典版によれば「Hob.11」は「別個の楽章を結合したものに過ぎない」そうだ。 |
| 12 | A-dur
1766以前 |
第1楽章は旧全集だと速度表示がないが、Henle版には Andante とある。ゆったりした流れの美しい楽章のあと、メヌエットとフィナーレ。第1楽章の一部(たぶん展開部)に他人の手が入っている可能性も指摘されている作品。 |
| 13 | E-dur
1766以前 |
シンコペーションや反復音を用い、Moderatoのテンポの中にリズムの面白さがある。展開部始まってすぐに再現部と錯覚させるような第1主題が登場するのも興味深い。第2楽章はメヌエット、第3楽章は長調・短調の交替が面白く、変化に富んだフィナーレ・プレスト。 |
| 14 | D-dur
1766以前 |
第1楽章Allegro Moderatoは穏やかで抒情的。転調に色彩感もみせる。この楽章も旧全集と新全集で音の違う箇所(展開部)があるので要注意。第2楽章は動きのあるメヌエット。第3楽章はプレストで、主題は2+3小節という不規則構造。展開部が充実していて聴いていて楽しい曲だ。 |
| Es2 | Es-dur
|
ゲオルク・フェーダーによってはじめて言及されたソナタで、「かつてモラヴィア地方のライフラト(Rajhrad)のベネディクト修道院で作成されたハイドンの初期ソナタの手稿集に含まれている」曲(ウィーン原典版【旧版】の解説による)。写譜上の問題がいろいろある曲らしく、ヘンレ版、ウィーン原典版ともに編集者が装飾音やリズムを直したものが添えられている。第1楽章はモデラート、4/4拍子で規模の大きな楽章である。第2楽章はアンダンテ、2/4拍子、ハ短調で流れの美しい楽章。第3楽章は変ホ長調のメヌエットで、ハ短調のトリオをもつ。 |
| Es3 | Es-dur
|
これもフェーダーによって言及されたソナタ。第1楽章の展開部で反復進行が非常に美しい箇所がある。第2楽章はメヌエットで、トリオが変ホ短調という珍しい調で書かれている。 |
| 15 | C-dur
|
ハイドンの1760年前後の作品と考えられる6声部のディヴェルティメント(Hob.II:11)のクラヴィア独奏用の編曲。 |
| 16 | Es-dur
1750年代 |
自由な第1楽章がなかなか面白い作品。当時はカデンツァ、アインガングを記入する習慣がまだなかったことから一般的には「偽作」と判断されている。 |
| 17 | B-dur
|
J.G.シュヴァンベルガーによるものであると判明した作品。 |
| 18 | B-dur
ca1766/67? |
第1楽章Allegro Moderatoは付点と3連符のリズムを変化させ、多彩な装飾音を駆使する。第2楽章はモデラート、3/4拍子の緩徐楽章でフェルマータ、休符が独特の雰囲気を持っている。 |
| 19 | D-dur
1767 |
第1楽章は規模が大きく、音の広がりや多彩な演奏技巧など、非常に魅力的な楽章だ。 第2楽章は第11小節から現れる低音の主題が大きな特徴で、この楽章をカザルスが編曲して演奏したのは理解できる。第3楽章はロンド形式と変奏曲形式の混合で、ハイドンには他のソナタにも例がある。 |
| 20 | c-moll
1771 |
シュトゥルム・ウント・ドラング(疾風怒濤)期の傑作。憂いと情熱に満ちた表出的なスタイルは、エマヌエル・バッハの強い影響を受けたものである。f、p
の記号がこの曲の第1楽章で最初に現れたと言われている。 ★ 演奏上の注意点: 第3楽章第6小節の奏法はウィーン原典版(旧版)では以下の a のように書かれているが、b のように演奏する人もいる。 ![]() |
| 21 | C-dur
1773 |
1773年のソナタ集からハイドンは(それまでのシュトゥルム・ウント・ドラング時代の様式とは違う)新しいスタイルで作曲したと言われている。第1楽章 アレグロ(初版による)は付点音符を多用した特徴をもち、明るく楽しい。第2楽章 アダージョは旋律が細かく装飾されてゆく美しい楽想で、時々オクターヴ、3度のパッセージが登場する。第3楽章 プレストは軽快なロンドで、音の扱いにいろいろな工夫がみられる。 |
| 22 | E-dur
1773 |
第1楽章 アレグロ・モデラートは堂々とした和音による開始。第16小節に表れる素早いアルペッジョに特徴がある。第2楽章はアンダンテ、ホ短調。3連符による流れが美しい楽章。第3楽章はテンポ・ディ・メヌエットで、ホ長調とホ短調の交替に情緒が感じられる。 |
| 23 | F-dur
1773 |
多くのピアニストが演奏会で取り上げる人気作品。第1楽章は快活で技巧的な魅力にあふれた音楽で、第29小節にみられるようなハイドン特有の「サプライズ転調」もある。第2楽章はヘ短調、6/8拍子で3連符の分散和音の伴奏の上にアリアのような美しいメロディーが歌われる。フィナーレはプレスト、2/4拍子。同じ素材が使われるソナタ形式だが、アーティキュレーションが変化するなどの工夫があり、聞いていて楽しい音楽である。 ★ 演奏上の注意点: 第1楽章にはテンポ標示がないが、音楽の性格はアレグロと考えられる(しかしウィーン原典版[旧版]ではModerato)。 |
| 24 | D-dur
1773 |
第1楽章は幅広い音域を使ってピアニスティックに書かれている。第2楽章はバロック協奏曲の緩徐楽章、あるいはレチタティーヴォを思わせるもので、アタッカでフィナーレに続けられる。全体に手際よくまとめられた印象の強いソナタだ。 ★ 演奏上の注意点: 第1楽章冒頭にあるターン記号にAの小音符があるが、この場合はテュルク他の説に従えば「geschnellte Doppelschlag」(またはクィック・ターン)であり主音から奏されるとのこと。 |
| 25 | Es-dur
1773 |
第1楽章 Moderato は提示部が非常に充実した内容であることが特徴。細かい音形を様々に変化させ、技巧的に作られている。第2楽章はカノンの技法を用いたメヌエットで、第1楽章に比べると小規模なものとなっている。 |
| 26 | A-dur
1773 |
楽想の豊かな第1楽章はHob.25と似ているが、第11小節からの反復進行、第25小節のオクターブ進行など新しさも見せる。展開部が充実しているのも特徴だ。再現部が2拍分ずれて開始されるのもあまり例がない。第2楽章は Menuet al Rovescio(逆行のメヌエット)と書かれており、当初は交響曲第47番の第3楽章として書かれた。主部の音を反対から辿って演奏することができるように書かれた見事なものである。フィナーレは短くまとめられたプレスト。 |
| 27 | G-dur
1776 |
Hob.XVI/35とともに最も多く演奏(学習)されるハイドン作品と思われる。フィナーレは「Hob.XVI/28」の性格と似ている。 ★ 演奏上の注意点: ヘンレ版、ウィーン原典版(旧版)では第1楽章第83小節の右手進行が「B-G-A-G」となっている。ウィーン原典版旧版では「A?」と注が添えられているが、同新版では「A」となっており「クリスタ・ランドンの読み」にしたがって訂正したとある。おそらくこれで良いと思う。 |
| 28 | Es-dur
1776 |
第1楽章 Allegro moderato は明快な主題、分かりやすい構成で書かれ、典型的なソナタ形式の確立を感じさせる。展開部第68小節以降などにみられる音域の扱いが独特でおもしろい。 第2楽章はメヌエット。トリオが変ホ短調という珍しい調になっている。フィナーレは、ハイドン作品にしばしば見られるロンド形式と変奏曲形式を組み合わせたもの。このソナタはハイドンの名作の一つと言えると思う。 |
| 29 | F-dur
1774〜 |
第1楽章は安定した低音に支えられた弦楽四重奏曲の第1主題と、第2主題で見られる素早いアルペジオの対比が面白い。第21〜23小節に見られるリズムの細分化などはベートーヴェンの「バガテル Op.33-5」を何となく思わせるユーモラスなものと思う。第2楽章も装飾で彩られた第1主題、そしてアルベルティ・バスに乗った流れるような第2主題という二つの主題の性格が描き分けられている。第3楽章は「テンポ・ディ・メヌエット」で、トリオは美しいヘ短調。再現部では変奏され、技巧が見事である。 |
| 30 | A-dur
1776 |
第1楽章は細かく刻んだリズムの第1主題と、その後で出てくる行進曲調のリズムに特徴がある。経過句で反復進行やユニゾンを多用、明るく分かりやすい構成になっている。最後で2/4拍子から3/4拍子 Adagioになり、そのまま次の楽章に続く。第2楽章はメヌエットに基づく変奏曲。この変奏曲はなかなか演奏効果に富んでおり、演奏して楽しい曲だと思う。 |
| 31 | E-dur
1776 |
第1楽章は多声的な宗教曲のような第1主題、推移の6連符を受け継いだ第2主題から成り、全体は優雅な曲想だ。第2楽章はホ短調 Allegrettoで、これもある種の宗教曲を思わせる楽想である。アタッカで続く第3楽章は明るい Presto で、主調と平行調との対比が面白い。 |
| 32 | h-moll
1776 |
エマヌエル・バッハとクレメンティの影響が見られる作品。第1楽章再現部直前の執拗なリズム反復は大きな特徴である。Sturm und Drang
様式が端的に分かる一曲だと思う。第2楽章はロ長調のメヌエット、第3楽章はロンドではなくソナタ形式。突然の休止をはさみ、ドラマティックな表現の楽章である。展開部始まってすぐ、ベートーヴェンの「運命の動機」に似た動きがあることと、珍しいコーダが付け加えられていることが興味深い。 ★ 演奏上の注意点:第3楽章主題の第2小節アーティキュレーションはウィーン原典版とブライトコプフ版、ペータース版とで違いがあるので注意しておきたい。 |
| 33 | D-dur
1771/73? |
冒頭のアウフタクト32分音符の動機が特徴的な第1楽章は活発で喜びに満ちた音楽である。展開部が充実しており、休符の使い方にも特徴が感じられる。第2楽章のテーマは嘆きを表すかのようで、第2主題との対照が見事だ。続けて演奏されるフィナーレはメヌエットで、ニ長調とニ短調が交替して現れることと、テーマが変奏されてゆくことが特徴である。 |
| 34 | e-moll
ca.1781/82? |
第1楽章はチェロとヴァイオリンの対話のような第1主題で始まり、重音で奏される明るい第2主題となる。「Presto」とある通り、快速でさわやかな気分が特徴。再現部では提示部とは異なった展開も見られ、最後はコーダ的な雰囲気も持っている。第2楽章はト長調、装飾句を多用して美しい流れを見せる。爽やかな第3楽章は「インノチェンテメンテ(無心に、無邪気に)」と指示されている。ロンド形式でアルベルティ低音の流れが心地よい楽想である。 ★ 演奏上の注意点: 第1楽章第98小節は版によって音の構成が違っているので要注意/第3楽章第62小節のD音をD#としてある楽譜が以前はあったが(1799年のブライトコプフ版など。1918年の同エディションではD音)、最近のウアテクストでは間違えないようにナチュラル記号を付けてある。ウィーン原典版にこの箇所についての校訂報告はないが「資料が多数あるため、資料B-IおよびEA(初版譜)における個々の誤りは――たがいに資料を比較すれば比較的容易に修正できる場合には――原則として報告されない」とあることから理解できる。 |
| 35 | C-dur
ca.1777/79? |
明るく軽快なハ長調でギャラント様式と評されるソナタ。第1楽章 アレグロ・コン・ブリオ、ハ長調 2/2拍子 は明快な主題が魅力的で、その後は3連符の分散和音による軽やかさがすばらしい。展開部でのヘ長調への転調、再現部でのハ短調への転調などハイドンらしい面白さもある。第2楽章はアダージョ、ヘ長調 2/2拍子で流れの美しい音楽である。第1主題が再現部で演奏されないのが特徴。第3楽章はアレグロ、ハ長調 3/4拍子で主題を終える際の16分音符による軽快なリズムに面白さがある。 ★ 演奏上の注意点: 第1楽章、第29小節以降に見られるターンについては Laszlo Somfai の研究(1776年頃ハイドンは「ターンの主要音が付点に来る」奏法に変化したとする考え方。Hob.XVI/28に見られるターンの書き方より)が興味深い。そうすると、ある楽譜で示されているような窮屈な(?)6連符で奏する必要はなくなるし、拍の前にターンを出す奏法も何となく不自然のように感じていたからである。 |
| 36 | cis-moll
ca.1777/79? |
第1楽章主題はユニゾンで登場するもので、その後様々に変化する。表情豊かな音楽で、特に第22、82小節にみられる「dolce」の指示に注目したい。第2楽章は長調・短調二つの主題をもつロンドで、他作品にも見られるように変奏されていくもの。この主題は「Hob.XVI/39」の第1楽章とよく似たものである。第3楽章は嬰ハ短調のメヌエット。トリオが嬰ハ長調という珍しい調になっている。 ★ 演奏上の注意点: 第1楽章第43小節「★印箇所」の右手がご覧のようになっているエディションがまだあるようだが(譜例はある国内版『ソナタアルバム』より)、普通のウアテクストでは3度低くなっている。これは「ソプラノ記号からト音記号への書き換えの誤り(ウィーン原典版)」という考え方で問題ないと思う。 ![]() |
| 37 | D-dur
ca.1777/79? |
イタリア的で、チェンバロ的な語法が特に華やかに生かされている。「ハイドンの作品の中でも数少ない、純粋な、教科書どおりの‘古典期のソナタ・アレグロ様式’の作品(ヨゼフ・ブロッホ,ピーター・コラジオ共著『ハイドン・ピアノソナタ演奏の手引き』)。たしかに第1楽章はすっきりとして2つの主題が分かりやすい。第2楽章はラルゴ・エ・ソステヌート、ニ短調。バロックの序曲を思わせる重厚なリズムで、悲劇的な曲調である。アタッカで続く第3楽章はプレスト・マ・ノン・トロッポ、ニ長調で「innocentemente」という指示がある。全体はロンド形式で明るく楽しい音楽となっている。 |
| 38 | Es-dur
ca.1777/79? |
第1楽章はシンフォニックな広がりを見せる書き方で、第19小節以降、あるいは展開部などは晩年のソナタの響きを思わせる。第2楽章の主題はハ短調と変ホ長調が交互に現れるもの。ドミナントの終止の後、次の楽章に続く。フィナーレは短くまとめられたアレグロ。 |
| 39 | G-dur
1780 |
Hob.XVI/36の第2楽章でも用いられたテーマを持つ第1楽章で、珍しいロンド形式。第2楽章はハ長調で、これもこの楽章としては珍しいソナタ形式をとる。フィナーレは Prestissimo でソナタ形式。 |
| 40 | G-dur
1782/84 |
2楽章制。ソナタ形式を含まないソナタの最初の例。和声構造が大胆なことや、pp〜ffの強弱記号の使用など、これまでとかなり異なったスタイルをとることから、ピアノのために書かれたと推定される作品。第1楽章 Allegretto innocente はト長調とト短調の二つの主題が変奏されてゆく形式。第2楽章 Presto ト長調は A-B-C-A-B-A の形式(ロンド形式に近い)をとるがやはり変奏の技法が用いられる。 ★ 演奏上の注意点: 第1楽章第79, 88小節に見られる calando については一般的な「dim.+ rit.」の意味とはやや違うという意見も知っておく必要がある。たとえば Rosenblum が「古典派音楽では、カランドの後に確実な a tempo が続くことは非常に稀であるが、その事実自体がテンポの緩和を妨げるものではない」と言っているように。テンポを緩める場合は音楽的文脈によるということだと思う。 |
| 41 | B-dur
1782/84 |
いつもの明るいハイドンの Allegro の音楽、と思っていると第2主題以降の色彩感に驚かされる。展開部での意外な転調にも注目。第2楽章は Allegro di molto で弦楽器のアンサンブルを思わせる音楽。変ロ短調〜変ニ長調と転調するところが面白い。Hob.40〜42のいわゆる「三部作」にはソナタ形式への忌避が見られるという説はどうなのだろうか。 ★ 演奏上の注意点: 第1楽章第95小節にある calando の考え方についてはHob.XVI/40と同様。 |
| 42 | D-dur
1782/84 |
第1楽章 Andante espressivo は「ロンド形式」と言われているが、主題を変奏させていくのが特徴。第2楽章 Vivace assai はクレメンティ風の3度のパッセージも登場するピアニスティックなフィナーレである。 |
| 43 | As-dur
1771/73? |
第1楽章は3連符伴奏が多く、Hob.XVI/35と似た感じのする楽想である。展開部の転調が自由で面白い。第2楽章メヌエットは信号ラッパのような動機が特徴、第3楽章はロンド・プレスト。休符やフェルマータを効果的に用いたハイドンらしいフィナーレである。 |
| 44 | g-moll
ca.1768/70? |
ウィーン原典版【旧版】では「1b」でHob.XVI/20の前に収録されている。短調で書かれている点、疾風怒濤
Sturm und Drang 時代の特徴がよく表れた一曲としばしば評されている点で共通点があるようだ。2つの楽章がともに短調で書かれている。第1楽章はスタカート記号(縦線)が特徴の第1主題と、アルペッジョによる第2主題の対比が見事で、展開部が充実している。第2楽章 Allegretto は装飾音を多用した、規模の大きいメヌエット形式である。楽章終止がト長調であるのも珍しい。 ★ 演奏上の注意点: ウィーン原典版【旧版】では第1楽章第1主題の奏法は「つねにポルタートで奏される」とあるが、新版の解説では「ポルタート以外、ハイドンは縦線を使うことが常だった」とある。昔のピアニスト(リリークラウス、リヒテルなど)はテンポを遅めにとりポルタートで演奏していたが、現代では軽快なテンポ、スタカートが多くなっているように思われる。 |
| 45 | Es-dur
1766 |
シュトゥルム・ウント・ドラング時代の最初の年の作品。3つの楽章すべてがソナタ形式を採用したもので、第1楽章 Moderato は二つの楽器の掛け合いのように始まりホモフォニックな第2主題へと受け継がれる。第2楽章 Andante は16分音符の滑らかな動きが楽章全体を支配し、弦楽三重奏風である。 第3楽章は Allegro di molto でスカルラッティ風のトッカータ的楽想が目立つ。 |
| 46 | As-dur
1767/68? |
楽想が豊富で規模の大きいソナタ。第1楽章 Allegro moderato は明るく華やかなピアニスティックな楽章。第2楽章Adagio は落ち着いた8分音符の歩みで始まり、美しく装飾されてゆく。フィナーレ Presto はスケール、トレモロなど技巧を駆使した軽快な音楽。 |
| 47 | F-dur
1788(出版) |
ヘンレ版では Adagio 6/8(ホ短調)/Allegro 2/4(ホ長調)/Tempo di Menuet 3/4(ホ長調)の三楽章だがウィーン原典版では最初に
Moderato 3/4 (ヘ長調)があり、続く楽章はヘ短調、ヘ長調で Tempo di Menuet はない。ウィーン原典版ではホ短調版を「第19番」として「1b」に収録している(作曲年は”1766以前”)。1788年に出版されたこのソナタの第1楽章についてはウィーン原典版「新版」の解説を読むとその経緯がよく分かる。 第1楽章 Moderatoは模倣的な音階進行が特徴で、3度、オクターヴのパッセージも登場する。第2楽章 Larghetto はオペラアリアのような美しさをもつが、第11小節のような幅広い和音があり、これはウィーン原典版で「あまりクラヴィーア的でない」という箇所だと思われる。ただ、この和音についてヘンレ版だと「ショート・オクターヴを持つ楽器でのみ演奏可能」という考え方も示されている。フィナーレは Allegro で、不規則な小節構成も見せる自由な楽章。 |
| 48 | C-dur
1789 |
ソナタ形式を含まない2楽章制。第1楽章 Andante espressione は変奏曲形式で、Hob.42を思わせる緩徐楽章。第2楽章 RONDO Prestoは休みなく続く8分音符の軽快な流れが特徴である。 |
| 49 | Es-dur
1789/90 |
第1楽章 Allegro は規模の大きなソナタ形式で、特にコーダの充実が素晴らしい。第2楽章 Adagio e cantabile は気品のある緩徐楽章で、第1楽章でも見られた手を交差させる奏法が効果的に用いられる。フィナーレ Tempo di minuetto でロンド形式となっている。 |
| 50 | C-dur
1794/95? |
ピアノの持つ華やかな響きを開拓した名作。cresc., dim. などの強弱記号が豊富に用いられている。「open pedal」の指示にも注目。 |
| 51 | D-dur
1794/95? |
第1楽章 Andante は提示部を反復しないソナタ形式。Hob.43 でも見られたような3連符の伴奏が支配的だが、旋律をオクターヴや3度で奏する場面が多い。第2楽章 FINALE Presto の主題はユニゾンで登場、アウフタクトが“fz”で強調されるのが特徴。 |
| 52 | Es-dur
1794 |
ハイドンのピアノ・ソナタの最高傑作。豊かな和声法、華やかな演奏技巧を駆使して、充実した古典的世界が築かれる。第2楽章がホ長調という珍しい調で書かれていることにも注目したい。 |
| ● クラヴィーア小品・変奏曲 | ||
| Hob.XVII | 曲名・調・作曲年 | 特徴・寸評・演奏上の注意点 |
| 1 | Capriccio "Acht Sauschneider müssen sein" G-dur 1765 |
ドイツ民謡「8人のへぼ仕立て屋(訳は大宮真琴『新版 ハイドン[音楽之友社]』によるが、他の訳語もある)による自由な形式、368小節に及ぶ長大で自由な形式の作品。 ★ 演奏上の注意: 第25-26、36?37小節、367-368小節に見られるオクターブを超えた和音はヘンレ版の解説によると「ショート・オクターヴ」のために書いたのであろうということ。 |
| 2 | Variationen A-dur Variation G-dur 1765 |
「アリエッタと20の変奏曲」と標記されることもある。イ長調とト長調の2種類が残されており、ウィーン原典版でこの2種類を比べると、変奏の順序が違っているのと、イ長調の方は第12変奏までで終わっていることに気付く。ヘンレ版では「第
2 版では初めて、おそらく元の順序で 20 のバリエーションの正確な数が示されて」いるとのこと。中級程度のピアノ学習者にとって様々な演奏技巧を習得するのに有効な作品として知られる1曲。とくにVar.3(素早い手の交差)、Var.(反復音)、Var.18(左手のトリル)、Var.20(オクターヴ奏)が勉強になる(変奏の番号はウィーン原典版のト長調版、およびヘンレ版による)。 ★ 最後の変奏で左手にオクターヴを超える和音が出てくるのはHob.XVII/1と同じ。 |
| 3 | Variationen Es-dur
1770-1774 |
主題の後半に表れる和声進行が美しい。続いて12の変奏が行われる。 |
| 4 | Fantasia C-dur
1789 |
手の交差、大胆な転調、3小節などによる不規則構造(第88小節以降など)、「音が聞こえなくなるまで」テヌートする指示のフェルマータ(第192小節など)、クレメンティ風の3度パッセージ(第249小節以降)、執拗な動機の繰り返し(第282小節以降)など、楽想上でも演奏技巧上でも非常に意欲的な作品で、演奏効果も高い。 ★ 演奏上の注意: 第454、456,458小節ではハイドンが「オクターヴ・グリッサンドを考えていたのだろう」とウィーン原典版の注解には書いてある。 |
| 5 | Variationen C-dur
1790 |
学習曲として多く取り上げられる曲と言える。テーマですでに音が細分化されていることと、短調の変奏が登場するのが特徴。 |
| 6 | Variationen f-moll(Sonata・un piccolo devertimento)
1793 |
ウィーン原典版では「Andante con Variazioni」。自筆譜では標題に「Sonata」と書かれているらしい。その他、信頼できる手写稿によると「いとも尊敬するデ・プロイヤー嬢のために書かれた小さなディヴェルティメント」、初版だと「クラヴサンあるいはピアノのための変奏曲…ヨーゼフ・ド・ブラウン男爵夫人に献呈、作品83」(以上ウィーン原典版より)。一般的には「アンダンテと変奏曲」と表記されるようだ。主題はヘ短調とヘ長調に分かれ、それぞれが美しく変奏されてゆく。ハイドンのクラヴィーア作品の中でも第一級の作品だと思うが、とくに第175小節以降の展開が感動的である。 |
| 7 | Variationen D-dur
1766(出版) |
テーマは第3〜4小節に見られる付点リズムをくり返すのが特徴。5つの変奏が続く。 |
| 9 | Adagio F-dur
1786 |
編曲されたものであろういう意見と、当初はクラヴィーア曲としての演奏を意図していたとする説がある作品。全体で30小節という長さだが、主題が美しく、三部形式で見事にまとめられた作品と言える。 |