グリーグのピアノ作品(作成中)

エドヴァルド・グリーグ Edvard Hagerup Grieg (1843-1907)

ノルウェーの作曲家グリーグは一般には「ピアノ協奏曲」が知られているほか、「≪ペール・ギュント≫組曲」、「ホルベアの時代より」、「ヴァイオリン・ソナタ第3番」、歌曲「君を愛す」などをご存知の人も多いことと思います。ピアノ作品を見ると、『叙情小曲集』他の多数の小品があり、これらはアイナル・ステーン=ノクレベルグの全集が出てから広く知られるようになったと思いますが、昔からギーゼキングやギレリスなどによる「抒情小曲集(抜粋)」の録音は知られていました。ペータース版では3巻に分かれて収録されているピアノ曲について今後演奏していきたいと思います。

ピアノ独奏曲

4つの小品 Op.1 (1861)

1. Allegro con leggierezza. 右手分散和音の内声でメロディーを浮かび上がらせる、タールベルク風の音楽と言える。コーダ直前の和声が独特だ。
2. Non Allegro e molto espressivo. 半音階的な和声進行に特徴がある。中間部は Allegro capriccioso となり、主部とはかなり対照的な音楽となる。
3. Mazuruka. グリ−グらしい和声の魅力に満ちたマズルカ。ロマン派の性格的小品として魅力のある一曲だと思う。
4. Allegretto con moto. アイナル・ステーン=ノクレベルクは「アラ・ポラッカ」と評している。シューマン風に聞こえる部分もあると思うが(第2部でのアルペッジョなど)、この曲もやはりグリーグらしい和声の使い方がよく表れていると思う。

詩的な音の絵 Op.3 (1863)

6曲から成るピアノ曲集。
1. Allegro, ma non troppo. ホ短調、3/8拍子。ゲーゼの作品で聴いたことがあるような雰囲気だと思う。冒頭の和音からはホ短調とは気付かないように書かれており、3拍子で民俗舞曲のようでもあり、メンデルスゾーン風スケルツォのような感じもある。
2. Allegro cantabile. 変ロ長調、2/2拍子。ソプラノとバスの二重奏(唱)の内声を後打ちで和音が伴奏する形は何となくシューマンの作品(幻想曲Op.17など)を感じさせる。中間部では più vivo となり、軽やかな楽想が登場する。
3. Con moto. ハ短調、6/8拍子。ノックレベルクによれば「ノルウェー風ブルレスカ」ということだが、バロック舞曲のジーグ的でもある。ドリアの和音が用いられ、軽快な音楽となっている。
4. Andante con sentimento. イ長調、2/2拍子。抒情小曲集 Op.68-3「あなたのおそばに」に似た雰囲気の1曲だと思う。cresc. e string.となる箇所が二回あり、感情の高まりを表しているようだ。
5. Allegro moderato. ヘ長調、2/4拍子。ノルウェーの民族舞曲を思わせる。中間部はいくらかシューマン風となる。
6. ALlegro scherzando. ホ短調、6/8拍子。16分音符の急速な流れが支配する。「抒情小曲集」にもありそうな楽想だと思うがどんなタイトルが良いだろうか。特に曲の終え方が軽やかで美しいと思った。

ユモレスク集 Op.6 (1865)
1.Tempo de Valse. 付点音符が多く、どこか民族舞曲的な香りがする。最後は stringendo, molto Allegroとなり華やかに曲を閉じる。
2.Tempo di Menuetto ed energico. 2小節めの2拍目のアクセントが来るリズムで、和音の重厚さが特徴。
3.Allegretto con grazia. 軽快な付点リズムによる「ユモレスク」らしい楽想。中間部はロ短調で、フリギア旋法が用いられる。
4.Allegro alla burla. 民族舞曲風の音楽。付点リズムが続くメロディーは「抒情小曲集」中の Op.38-2(民謡)、あるいはOp.65-1(青春の日々から)の中間部を思わせるものがある。和声の色彩感も豊かで、コーダはさらにテンポを上げて華やかに締めくくられる。

ピアノ・ソナタ ホ短調 Op.7 (1865)
デンマークの作曲家ゲーゼやハルトマンの影響があると言われる。全体は分かりやすく、演奏技巧面で(リストやシューマンのような)難しさをそれほど追求していないにもかかわらず演奏効果のある作品。ただ、第4楽章の左手には和音進行で非常に難しい箇所がある。それと、このソナタの最終楽章テーマはチャイコフスキー「交響曲第5番」に出てくるリズムによく似ていると思う。

人々の暮らしの情景 Op.19 (1870)
三曲で構成されており、第3曲のコーダには最初の2曲からの楽想が再登場する、という内容的な関連が興味深い作品だ。
第1曲「山の調べ」: Un poco Allegro. 3/4拍子、イ短調。主題はユニゾンのスタカートで静かに奏されるが、だんだんと音の厚みを増していき、「シンフォニックな調べとなる。コーダは Presto となり、鮮やかに曲を閉じる。
第2曲「婚礼の行列が通り過ぎる」: Alla marcia. 2/4拍子、ホ長調。グリーグの作品らしい、親しみやすい旋律に満ちた名作だ。遠くからの行列がだんだん近づいてきて、遠くに去っていくような強弱描写がすばらしい。
第3曲「謝肉祭より」: Allegro alla burla. イ短調。さまざまな情景描写が行われ、規模の大きな音楽となっている。最後に第2曲の回想が現れ、その後 Prestissimo となり第1曲のメロディーが4拍子で登場、華やかな響きとなり曲を閉じる。演奏効果に優れた作品だと思う。

バラード Op.24 (1875)
「ノルウェー民謡による変奏曲形式のバラード」と表記されることもある。非常に規模の大きな変奏曲で、音楽的にも演奏技巧的にもグリーグの個性が発揮された作品だと思う。この曲の主題はノルウェーではよく知られた民謡とのこと。ロマン派以降でピアノのための変奏曲には傑作がいくつかあるが(個人的な評価だとブラームス以降ではドホナーニ「E.Gの主題による変奏曲(1897)」、ニールセン「主題と変奏(1917)」、ラフマニノフ「コレルリの主題による変奏曲(1931)」など)、この作品も非常に優れた名曲だと思うし、書かれた時代を考えるとその意義はきわめて大きいと思う。

アルバムの綴り Op.28 (1864/74/76/78)
第1曲 Allegro con moto. サロン風音楽という印象で、シューマンあるいはチャイコフスキーの小品で聞いたような響きがする。
第2曲 Allegretto espressivo. 夢見るような雰囲気の美しい小品。中間部に聞かれる即興的な調べが非常に印象的である。
第3曲 Vivace. 可愛らしいワルツであるが、グリーグらしい和声が随所に聞こえてくる。
第4曲 Andantino serioso. 発想標語のように厳粛な、あるいは悲劇的な雰囲気をもつ。中間部はそれに対して保続音響きの上に Allegro giocoso の明るいメロディーが演奏され、非常に対照的だ。

2つのノルウェー民謡による即興曲 Op.29 (1878)
第1曲 Allegretto con moto.--Allegro. 序奏はレチタティーヴォの後、テノールにテーマが現れ、タランテラ風の活発なリズムとなる。さらに同じ素材が3/4拍子となり、最後には重厚な和音へと変化する。
第2曲 Andante.--Presto. 主部は2/4拍子、テーマは初めは内声で演奏され、ソプラノへと移る美しい旋律。中間部では3/4の急速な3連符の流れへと変化する。

抒情小曲集
第1集 Op.12
アリエッタ/ワルツ/夜警の歌/妖精の踊り/民謡/ノルウェーの旋律/アルバムの綴り/祖国の歌
「ワルツ」は素朴な中にも豊かな情緒を感じる佳作。

第2集 Op.38
子守歌/民謡/メロディ/ハリング/跳躍舞曲/悲歌/ワルツ/カノン
「子守歌」で短調に変化する中間部が素晴らしい/「メロディ」では3連符の独特な響きが特徴。

第3集 Op.43
蝶々/孤独なさすらい人/故郷にて/小鳥/愛の歌/春に寄す
「蝶々」は描写的な音楽でピアニスティック/「故郷にて」は和声進行に味わいを見せる/「春に寄す」は最も親しまれている作品のひとつで印象派風な3段譜も後半に現れる。

第4集 Op.47
即興的ワルツ/アルバムの綴り/メロディー/ハリング/メランコリー/跳躍舞曲/悲歌
「メロディー」は同じような旋律の繰り返しだが不思議な魅力で聞かせる/「悲歌」はグリーグの音楽的個性がよく出ている作品。

第5集 Op.54
羊飼いの少年/ノルウェーの農民行進曲/小人の行進/夜想曲/スケルツォ/鐘の音
「羊飼いの少年」は暗い叙情で、フルートの旋律風。4連符の扱いに個性がある/「小人の行進」は学習者がしばしば演奏する曲だが速すぎることが多く要注意/「夜想曲」は管弦楽版も美しい。

第6集 Op.57
過ぎ去った日々/ゲーゼ/幻影/秘密/彼女は踊る/郷愁
「ゲーゼ」は、ドイツ語読みにして「ガーデ」と表記してあることが多い。Gade没後に回想として作られた作品/「郷愁」の中間部では鳥のさえずりのような音も聞こえる。

第7集 Op.62
風の精/感謝/フランスのセレナード/小川/夢想/家路
「フランスのセレナード」はお洒落な小品/「小川」はロマン派キャラクターピースの傑作/「家路」は愛好する人が多い作品。

第8集 Op.65
青春の日々より/農夫の歌/憂鬱/サロン/バラード風に/トロウハウゲンの婚礼の日
「青春の日々より」は規模の大きい作品で、悲劇的な主部と舞曲風中間部からなる/「トロルハウゲンの婚礼の日」は管弦楽版もある。

第9集 Op.68
水夫の歌/おばあさんのメヌエット/あなたのおそばに/山の夕べ/ゆりかごの歌/憂鬱なワルツ
「あなたのおそばに」は魅惑的な旋律と転調の妙が素晴らしい。

第10集 Op.71
昔々/夏の夕べ/小さな妖精/森の静けさ/ハリング/過ぎ去りて/思い出
「森の静けさ」は広々とした風景を想像させる名作。

25のノルウェーの踊りと舞曲 Op.17
組曲「ホルベアの時代より」 Op.40


ピアノ協奏曲

ピアノ協奏曲 イ短調 Op.16
ペータース版の第2ピアノパートは初演時の初稿「original 1868/1872 version」によるので注意。第1楽章の第2主題はトランペットで奏されるし、第3楽章の冒頭は低弦の響きなので、今日通常に聴かれる響きとはだいぶ異なる。この版による演奏は Love Derwinger の録音(BISIS-CD-619)で聴くことができる。


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