ショパンのピアノ作品
(「印象に残った演奏」は実演が基本ですが、録音も含まれます)

 ピアノとオーケストラ

モーツァルトのオペラ「ドン・ジョヴァンニ」の《ラ・チ・ダレム・ラ・マーノ》による変奏曲 Op.2
ピアノ協奏曲第1番 ホ短調 Op.11
ピアノ協奏曲第2番 ヘ短調 Op.21
ポーランド民謡による大幻想曲 イ長調 Op.13
ロンド・ア・ラ・クラコヴィアク ヘ長調 Op.14
アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ 変ホ長調 Op.22

 ピアノ独奏曲

練習曲集 Op.10/Op.25
新しいテクニックが開発されたことと共に演奏会用作品としても一級品の価値のある偉大な曲集。
かつての巨匠が意外に全曲録音をしていないという事実からその難しさがわかると思われるし(そのわりに学習者はよく練習させられる)、通して弾くことはかなり難しい。以下にそれぞれの作品の「練習」の目的と演奏上で大切なことを記す。

第1番ハ長調 右手10度音程のアルペジオ。「1-245」というように考えると練習の工夫ができるはず。基本的に8小節構造になっているが最後のフレーズは12+12と考えられるように思う。
第2番イ短調 チェルニーも「60番練習曲(1837)」で取り入れた特殊なテクニック。右手3-4-5で半音階を弾くが和音が付いているため1-2の打鍵に注意が必要。
第3番ホ長調(別れの曲) メロディー表現のエチュードだが、中間部は両手の2-5を拡張するねらいも持っている。当初は速いテンポの指示だったという話は興味深いものだ。
第4番嬰ハ短調 Prestoで弾くのは意外と難しい。弱い音の表現が大切。
第5番変ト長調(黒鍵) リズミカルで楽しい作品。ペダル用法は版によって異なるが、まずは多用しない方法で練習するのが良いと思われる。
第6番変ホ短調 ノクターンのような性格だが、長い音価の音をカンタービレで聞かせるためには伴奏の表現も大切だ。
第7番ハ長調 3度6度の急速な交替。2-1の反復音の奏法に注意。
第8番へ長調 右手の柔軟性が求められる。左手の表現も必要。
第9番へ短調 感情表現とアゴーギクのエチュード。リスト「超絶技巧練習曲第10番」と似ている。
第10番変イ長調 右手6度の練習だが、左手のアルペジオにも注意。アクセントが移動する面白さを表現する内容になっている。
第11番変ホ長調 広い音程のアルペジオを両手で奏する。ハープのような感覚である。
第12番ハ短調(革命) 左手のエチュ−ド。右手の和音に付けられたタイを見落とす人が多いので要注意。悲劇的な曲想を十分に表現したい。

練習曲集 Op.25

第1番変イ長調(エオリアン・ハープ) ショパンは「羊飼いの笛」と言ったが、この言葉にこの曲の練習方法のヒントがあると思われる。
第2番ヘ短調 右手と左手で拍感が違うことにこのテクニックへの理解の入口があると言った人がいる。
第3番ヘ長調 32分音符のところが難しそうだが、音符の長さに注目すると表現の多様性が見える。
第4番イ短調 左手の跳躍とシンコペーションの不安定な楽想。ソプラノに時々出るレガートに注意。
第5番ホ短調 6度に装飾音符がついた形を変化させる面白さ。中間部は左手のカンタービレ。
第6番嬰ト短調 難易度の非常に高い3度のエチュード。指使いに関してはいろいろな方法があるようだ。
第7番嬰ハ短調 二人の奏者の歌心を表現したい作品。作品番号が近い「ポロネーズ第1番」の中間部にもこのような書法が見られるので比べてみたい。
第8番変ニ長調 両手の重音の練習曲。きれいに6度を演奏するには思ったより難しい作品。
第9番変ト長調(蝶々) 3〜5度の和音とオクターヴの組み合わせをスタカートで弾く練習曲。無理して練習することで手を痛めることがあるので注意したい。
第10番ロ短調 両手のオクターヴのための練習曲。このオクターヴはレガートで奏する。
第11番イ短調(木枯らし) スケルツォ第3番に見られるテクニック(中間部)とも共通。右手は強靭さが要求される。
第12番ハ短調 並行したアルペジオ。10-1と同じでコラールが隠されている。アクセントの音を意識することが大切で、第15小節からの形で降りてくる時に5指がアクセントにならないようにしたい。
★ 印象に残った演奏: V.アシュケナージ(LPディスク)

前奏曲集
バロック期にみられた様式だが、ショパンは前奏曲のみでツィクルスを構築するという新しさを見せた。
★ 印象に残った演奏: M.アルゲリッチ(1976.6.8 東京文化会館)

ソナタ
ショパンは再現部で第2主題から登場させる、という方法を生み出したが、第1主題の冒頭から再現させないという方法はモーツァルト、クレメンティにも見られる。

第2番は「葬送行進曲」が最初に作られ、それを基に構成されたと考えられる。
★ 演奏上の注意:「Doppio movimento」のテンポをほぼ忠実に守る人と、それよりかなり速く弾く人がいる/第4-5小節にはナショナルエディションでは繰り返し記号がないが、 これは解説を読むとグートマンの筆写譜で2重線に区切られ、ドイツ初版で[勝手に]繰り返し記号に変えられたものだとのこと/コーダの第235小節から急に速くする演奏を時々聴くが個人的にはかなり疑問。これについては note に述べてある。

第3番はバランスのとれた傑作である。
★ 印象に残った演奏: ウィリアム・カペル(LPディスク)

ノクターン
フィールドが創始した様式をショパンはいっそう魅力的なものにした。

バラード
バラードは「譚詩曲」と訳され、もともとは声楽曲だった。叙事的性格の詩に付けられた音楽と言えるが、同郷のミツキェヴィチの詩は創作の契機となった以上のものではないと思われる(楽曲にその詩を当てはめて考える人がいるが要注意)。

スケルツォ
「スケルツォ」は「諧謔曲(たわむれの音楽)」といった意味だったが、他作品にもあるように、形式を受け継いではいるが内容は全く別物に作り替えているところが大きな特徴。

ワルツ
軽妙洒脱なサロン風音楽。ウィーンで好まれていたような舞踏会用のワルツというよりは鑑賞用の音楽となっているのがショパンの個性と言える。

マズルカ
ショパンが一生を通じて愛奏し、作曲した様式。リズムの表現が難しいとしばしば言われるが、マズール、クヤヴィヤック、オベレクなどの特徴を知ることから、そしてポーランドの演奏家の絶妙なリズム感を聞いて参考にすることからその本質に迫ることは可能だろう。

ポロネーズ
ショパンの最初の作品はポロネーズだった。初めは貴族の舞曲で、重々しい荘重なリズムを持った、王の前を行く州知事たちの行列のための曲だった(カミーユ・ブールニケル『ショパン』)。ショパンはこの様式をインターナショナルなものに向上させた。

即興曲
「幻想即興曲」はショパンが出版を見合わせた作品だが、小坂裕子『作曲家◎人と作品』によればその理由は「主題が同じ年にモシェレスが発表した即興曲と似ていたため」と書いてある。

変奏曲
「民謡 “スイスの少年”による変奏曲 ホ長調(遺作)」
「変奏曲 イ長調≪パガニーニの思い出≫(遺作)」
「エロールのオペラ≪リュドヴィク≫のロンド主題による華麗なる変奏曲 Op.12」
「ヘクサメロンのための変奏曲(ベルリーニの≪清教徒≫の行進曲による変奏曲) ホ長調」

ロンド
第1番〜第3番は独奏用、第4番は独奏用と2台ピアノ要の楽譜がある。

幻想曲
大きな構想を持つ作品。最初に現れた葬送行進曲風の楽想が高揚していく部分、最後に中間部のテーマが再現される部分は特にすばらしい。

バルカロール
ショパン以前にはメンデルスゾーンの無言歌「ヴェネツィアのゴンドラの歌」。声楽曲に向いているスタイルと考えられるが(「ホフマンの舟歌」など有名曲多数)、ショパンはピアノ独奏曲としての価値を人々に認めさせた。旋律が最初から重音で出てくるところに注目。
★ 印象に残った演奏: フー・ツォン(1989、前橋市民文化会館)

その他小品
「ボレロ ハ長調 作品19」
「タランテラ 変イ長調 作品43」
「演奏会用アレグロ 作品46」 「子守歌 作品57」
「コントルダンス 遺作」
「葬送行進曲 ハ短調 作品72−2 遺作」
「3つのエコセーズ 作品72?3 遺作」
「カンタービレ 変ロ長調」
「ラールゴ 変ホ長調 遺作」
「フーガ イ短調 遺作」
「アルバムの一頁 ホ長調 遺作」


 室内楽

「序奏と華麗なポロネーズ 作品3」
「ピアノ三重奏曲 ト短調 作品8」
「チェロソナタ ト短調 作品65」

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