ピアノ協奏曲
ピアノ協奏曲第1番
1858年に作曲されたこの曲は、ブラームス初期の作品であり、最初の大規模管弦楽曲であった。最初は2台のピアノのためのソナタとして作られ(クララ・シューマンと演奏したこともあったようだ)、当初は4つの楽章であったが、ブラームスはその内容に満足できず、ピアノ協奏曲へと改編されることとなったものである。
この曲は、ハノーファーでの初演と、続くライプツィヒでの演奏会ではあまり評判が良くなかったという。当時はリストに見られるヴィルトウオーソ的協奏曲が全盛であり、重厚で古典的な響きは聴衆にはなじめなかったのだろう。また、第1楽章の主題も和声的に複雑で分かりにくいし、ブラームスとしてはかなり前衛的な作品であったことも原因であったかと思われる。しかし2か月後のハンブルクでは好評を博し、その後は次第に評価されるようになったそうである。演奏者側から見ると、この曲は独自のピアニズムに満ちており、実に魅カ的な作品である。ブラームスのピアニズムの特徴はエネルギッシュな重音奏法および和音奏法、および叙情的で内省的なテクスチュアにあると言えるのだが、この協奏曲はその特徴が最大限に生かされたものと言っても過言ではない。しばしば「ピアノが目立たない」「技巧的に難しく演奏効果が上がらない」などと言われるようだが、他のロマン派協奏曲とは目指すところが違っていることに気付くべきではないだろうか。この曲の内容の深さは、同時代のあらゆるピアノ協奏曲を凌駕するものと言ってよいと思う。
なお、楽譜の問題として、最初に出版されたピアノ・スコア(2台用、1861)とオーケストラ・スコア(1875)には何箇所もの相違が見られる。さらに慣習的に変更されるピアノ奏法等もあリ、ブラームスの意図を探る仕事は、演奏者自身にかなリ負わされていると言えるかもしれない。
第1楽章 マエストーソ ニ短調 6/4拍子 協奏的ソナタ形式。
管弦楽の主題提示部は力強い第1主題が支配、ピアノ独奏はその後、古典派協奏曲とは異なった形で静かに加わってくる。そして穏和な第2主題がピアノによリ奏される。その後の劇的な展開は青年ブラームスの情熱を感じさせるものだ。
第2楽章 アダージョ ニ長調 6/4拍子 三部形式。
草稿には「主の御名によって来たれる者に祝福あれ」と記されていた。主部の弦楽器、中間部での管楽器の響きはまことに美しい。
第3楽章 アレグロ・ノン・トロッポ ニ短調 2/4拍子 ロンド形式。
大規模なロンドで、テーマは独奏ピアノが示す快活なもの。中問部では美しい旋律がフガート的に展開される。ピアノのカデンツァを2つ持つ構成で、曲は感動的なクライマックスで締めくくられる。
(2004.2.8 福島市民オーケストラ第48回定期演奏会プログラム解説: 三國正樹)
★ 演奏上の注意点:
1.第1楽章: 第110小節以降にみられる右手のトリル。両手でのオクターヴ奏に変更する方法もあるが、ブラームスが意図した響きからは遠くなるように思われる。
2.同: この楽章でのオクターヴのパッセージ(たとえば第226小節以降)でペダルを多用することについて。第232小節からのスラーとスタッカートの使い分けには留意したい。
3.同: ペータース版のスコアでは第306〜308小節まで右手に「8va」記号が付いている。ブライトコプフ版(2台ピアノ)だと同記号は第306小節冒頭まで。自筆譜を見ると第308小節までのようだ。
4.同: 第326小節第4拍のリズムを「E-F-G-A」という16分音符4つに変更する方法は多くのピアニストが行っているがこれは続く小節のヴァイオリンの音型に合わせる方法ということらしい。楽譜からは読めないのだが「演奏慣習」と言えそう。
5.第3楽章: 第238小節、この冒頭にピアノが前からの流れでB音を演奏することがある。ブライトコプフの全集版にはこの音がある。
ピアノ協奏曲第2番
1878年、最初のイタリア旅行後にスケッチが着手されたが、その3年後の1881年、2度目のイタリア旅行から帰った直後に作曲された作品である。ピアノ協奏曲第1番から23年後であり、このころはすでに2曲の交響曲や「ヴァイオリン協奏曲」、「大学祝典序曲」「悲劇的序曲」という名作を完成していたこともあり、彼のもっとも円熟した管弦楽法とピアノの技巧とが見事に調和した作品と言える。
第1楽章 アレグロ・ノン・トロッポ 変ロ長調 4/4拍子。ソナタ形式。序奏で第1主題がピアノ伴奏を伴ってホルンにより演奏される。そして独奏ピアノによるカデンツァののちにオーケストラによる堂々とした提示部となる。第2主題は第48小節から弦楽器により奏されるニ短調の旋律であるが、ヘ長調かニ短調かよくわからない感じもある。この主題が半終止、6連符の特徴的なリズムで新たな展開となり、ピアノが力強く再登場する。第1主題を演奏するがここは変奏となり、魅力的な発展をみせる。ピアノと管弦楽は対話するように進行していくが、カデンツァで見られた鋭いリズムと第2主題が組み合わされた独特のメロディーが現れることが特徴と言えるだろう。のちにピアノの華麗な分散和音(第128小節〜)、第2主題の変奏と続く。この第128小節からのリズムは正確に弾くのがなかなか難しく、さらに第154小節からのピアノのパッセージはまことにダイナミックである。展開部はヘ短調で開始(第188小節〜)、冒頭のカデンツァがオーケストラとピアノにより発展的に現れる。ピアノの技巧はいっそう華やかになり、ブラームス得意の重音奏法(第214小節)などがすばらしい。再現部に至る音の流れは、黎明のすがすがしい気持ちを感じさせるような、この楽章の最も素晴らしい部分である。
第2楽章 アレグロ・アパッショナート ニ短調 3/4拍子。三部形式。「セレナード第1番」第2楽章とも共通する動機による第1主題は力強く、息の長いものである。第2主題はイ短調で弦により奏される哀愁を帯びた旋律で、ピアノに受け継がれる。第2部は展開部のように進められたのち、ニ長調「ラルガメンテ」となる。ピアノが二重オクターヴによる技巧的なパッセージを演奏する部分が印象的である。
第3楽章 アンダンテ 変ロ長調 6/4拍子。三部形式。冒頭からチェロ独奏による歌曲のような主題が現れ、ピアノは副次的主題により後から登場する。第2部の後半、Più
Adagioとなりクラリネットによる息の長い旋律が聞かれる部分(第59小節〜)の美しさは、ブラームスの緩徐楽章中でもとりわけ美しい部分と言えるであろう。
第4楽章 アレグレット・グラツィオーソ 変ロ長調 2/4拍子。ロンド形式。軽やかなロンドA主題がピアノにより演奏される。変ロ長調の副三和音(W度)が支配する冒頭はユーモアの感じられる旋律で、弦楽器に受け継がれるとピアノはスタッカートのアルペジオ、急速な音階などで華麗に装飾していく。B主題は木管楽器によるハンガリー舞曲風のもの。これがヘ長調に転調し、ピアノが愛らしい旋律を奏でる。ピアノによる両手の3度のパッセージは非常に演奏困難な箇所。A主題がオーボエにより戻ってきたあと展開部のような発展がみられる。再びB主題の後、6/8拍子によるコーダとなる。第3楽章と第4楽章ではトランペット、ティンパニが使用されないこともこの作品の特徴と言え、軽快な音楽表現になっている要因とも思われる。
★ 演奏上の注意点:
1.第2楽章第43小節で指示されている tranquillo e dolce でテンポをややゆっくりめに設定する演奏とほぼイン・テンポで通す演奏があるが、後者の場合、そのあとのピアノの和音跳躍が非常に演奏困難である(そのためピアノが入ってからテンポを落とす演奏もある)。この伴奏の作り方は「ハンガリー舞曲」の独奏版などにもみられ、ブラームスのひとつの音楽上の特徴だと思われる。
2.第4楽章に何度か出てくる3度のパッセージはピアノ技巧中でもかなり難しいレヴェルと言える。第105小節からは指順で演奏するしかなさそうだが、第266小節以降では効果的な指使いがありそう。