1992年に録音されたシベリウスのピアノ小品集。演奏しているヴィータサロというピアニストは、フィンランド国内のコンクールで優勝したほか、シベリウス・アカデミーのピアノ科教授と解説に書いてある。
シベリウスの音楽は、ピアノ曲では「5つの小品 Op.75(樹の組曲)」「ロマンス Op.24-9」「カプリス」「即興曲 Op.5-5」などは比較的知られていると思うが、その他の曲をこれだけまとめて聞いたのは実は初めてである。結論から言って、今まで感じていたこの作曲家のイメージがかなり変わったように思う1枚であった。
シベリウスの音楽は、彼がヴァイオリンが得意だったことから分かるように弦楽器および管弦楽曲の分野で発揮されるものだと思ってきた。そしてピアノ曲にそれほど魅力的なピアニズムがあるわけでもないし、楽譜もそれほど多く所有していなかった。舘野泉氏の録音で数曲知っていた程度である。今回、全部で34曲に及ぶ小品集を聞いてみて、聴いていて耳に心地よい音楽ばかりであることに気が付いた。それぞれの曲が適度な長さであるのがよい。最も長い「舟歌」でも4分43秒である。最近の私はとにかく長い曲が苦手なので、こういう音楽を聴くのが好きである。
演奏も、素直に楽譜を読んだ表現と思われ、明快な音も素晴らしい。特に気に入ったのは「即興曲 Op.5-5(昔はそれほど良い曲だと思っていなかった)」「即興曲 Op.5-6(簡素だが味わいがある)」「田園詩 Op.24-6(メロディーが美しい)」「ロマンス Op.24-9(“フィンランディア”と似たテーマを持つ名曲)」「舟歌 Op.24-10(独特の暗さがある)」「踊りの歌(ショパン風で軽やか)」「追憶(ロシア風、とくにチャイコフスキー的)」「樅の木(演奏が素晴らしい!)」などである。
通して聴いていて、変化に富んでいる選曲のためか飽きることがない。これは素晴らしい録音だと思った。こういう掘り出し物を見つけることができるから東京での中古CDショップ巡りはやめられないのである。
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